米国でクルーズ船が100日運航停止に

2020.06.08 00:00

 新型コロナウイルス蔓延中の米国の業界ウェブサイトに最近、終息後の旅行動向やビジネス復活についての記事が散見される。トラベルパルスのアンケートで、回答者の77%が6~12月の旅行をまだ諦めていないという報告もある。4月のロサンゼルスタイムズは「コロナ危機後の旅行需要はまず国内近距離の自動車旅行でビーチなどのホテル滞在から始まるが、航空旅行の復活には4 ~6カ月かかる。そして、クルーズの再開時期は不透明」としている。

 観光産業の中で今回最大の打撃を受けたのはクルーズかもしれない。新型コロナウイルスが発生した大型クルーズ船は20隻以上とされるが、そのうち感染者の多いのは下記のとおりとなる。

ダイヤモンド・プリンセス
 横浜で2月4日から船上での検疫を受け、乗客・乗員計3711人中、感染者712人、死者13人。

グランド・プリンセス
 ハワイから帰還航海中、感染者20人発生。サンフランシスコ入港を拒否され、3月7日オークランド入港。感染者103人、死者2人。

ルビー・プリンセス
 3月19日にシドニー寄港時、体調不良13人のウイルス検査結果を待たず乗客2700人を下船させ、感染者662人、死者19人。

 こうした状況下、業界団体であるクルーズライン国際協会(CLIA)は自主的に全クルーズ船の運航停止を決定。3月14日に米国疾病予防管理センター(CDC)は米国領海での30日間のクルーズ船運航禁止を通達した。

 この間の経緯を4月のUSAトゥデイ紙が専門家の意見を集約して報告している。それによれば、関係機関すべての対応が遅かった。CDC は米国での最初の死者から3週間後にやっと禁止令を出した。その間、クルーズは平常どおりの運航を行い、船上で多くの感染が発生した。

 権威とされる国立アレルギー感染病研究所所長が2月に横浜のダイヤモンド・プリンセス船上の検疫は失敗だったと指摘したが、米国医療機関および米国政府にとってコロナはアジア地域固有なウイルスで米国に関係するとは考えていなかった。大統領は3月はじめまでクルーズ会社の対応を賞賛していた。そして、クルーズ業界自体は最大の稼ぎ時である夏を前に、船客の安全より収入を優先して判断が遅れたと批判されている。

 4月9日、CDCはクルーズ船の危険が高いとしてクルーズ運航停止を4月15日から100日延長すると決定した。CDC はその時点で、米国領海にクルー8万人が乗船する100隻がおり、港湾停泊中の20隻には感染の疑いがある乗員がいるとしている。

 これに対してCLIAは激しく反論している。CDCの指摘は不当ですべてをクルーズの責任にしているが、われわれは決して新型ウイルス発生や蔓延の原因でない。クルーズ産業は輸送、飲食、宿泊、旅行業など多くの産業を支えており、禁止令が1年続くと510億ドルの損失、17万3000人の直接雇用の減少となる。クルーズ業界は自ら運航停止を決断したように、今後も船客の安全とウイルス撲滅に最大の努力をしていくと声明を発表した。

 コロナ終息後、大きな変化が予想される新しい形のクルーズを米国人は受け入れるのだろうか。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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