Travel Journal Online

ピンチは変革のチャンス

2020年6月1日 8:00 AM

 ピンチはチャンス。逆にチャンスはピンチ。これは私が常に心に留め置く言葉だ。もうだめだと思う時が、後から思えば平常時なら常識にとらわれ、できない変革を実行できるまたとないチャンスの時。逆に追い風に乗り、これはいいぞという時は油断してしまい、毒に蝕まれているにもかかわらずそれに気がつかずだらだらと過去の延長線上の経営を続けてしまう時。ビジネスにも人生にもあてはまる大事な教訓だと思う。自分の常識を捨てられるかどうかが、環境変化の荒波を乗り越えられるかどうかの大きな分かれ道である。

 海外旅行が当たり前になった今日、いきなりその当たり前がなくなってしまった。00年頃にはやった書籍に『チーズはどこへ消えた?』というのがある。黙ってまたチーズがどこからか降ってくるとでも信じて動かないタイプと、自ら危険を承知で迷路に踏み出すタイプ。その違いを分かりやすい例話を通して説いている。いまという1日はまさに毎日が迷路にいるようなものだ。しかし立ち止まってしまえば即、死を意味する。いまこそ、方向を定めて走り出すべき、そう強く思う。

 今後の経済界回復へ向けたシナリオを考察してみたい。シナリオを3つに分けてみる。早期回復、長期低迷、そして破綻シナリオだ。

 まず早期回復シナリオの場合。コロナのワクチン開発もしくは治療薬承認により、人々の安心が急速に広がり、旅行業も含め、経済活動が早期に正常化した場合だ。ベストシナリオで大事なのは機を逃さない準備だ。ユーザーがしてほしいと思うことを、してほしいと思うタイミングで捕まえることができなければ、チーズはよそ者に独占されてしまう。その準備を怠ってはならない。挑戦に向いた人材を適正な配分で配置。しっかりとした戦略を練らせ、外部の知恵も借りるべきである。

 次に長期停滞シナリオ。現在ではこの確率は相当高いとみるべきだろう。海外旅行が年内戻ってこないケースだ。世界中の企業が、すでにこれを見越して国内ユーザーによる国内旅行需要の獲得を血眼になり競い合い始めている。ここで課題になるのがエージェントに頼らずとも簡単にサービスを購入できてしまう国内需要の現実だ。旅行業界が本質的に抱える代理店業という仲介機能に本当に価値があるのか、あるとしたらそれはどの部分か、真摯に再考すべきだろう。

 最後に破綻シナリオ、日本人がもっとも苦手な分野だ。しかし、それでは本当に破綻に向かいかねない。なぜなら、そういう危機的状況にいままさに業界全体があるからだ。欧米人をよく狩猟民族に、そして日本人を農耕(あるいは草食系)民族に例える人がいる。あながち外れてもいない。が、実際の世の中では災害を含め、あらゆる危機が降りかかる。失敗しない前提での経営では、逆に絶命しかねない。最悪のことを常に考え、それに備えた十分な備蓄、構造改革(リストラクチャー)、あらゆることをタブー視せず敢行できるかどうかが生死を決する。

 尊敬する経営者はと聞かれたら、迷わずスティーブ・ジョブズと答える。マッキントッシュとアイフォーンという世界中の人々の生活をも変える世紀の発明を2度もしただけでなく、人としてどう生きるべきかを考え抜き、生涯を通じて実践した。日本にもこのどう生きるべきかで正しい志を持つ人はたくさんいる。そういう方々はいまこそ奮起すべきだ。

 未曾有の、そして次に何が起こるか分からない現況では、何も行動しない・決断もできない、いわゆるサラリーマン経営者のタイプでは会社は早晩破綻する。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。