原優二のコロナ奮闘記vol.10 徹底した検査と隔離こそ海外旅行再開への道

2020.05.26 13:30

 海外旅行はいつ再開されるのか。ガイドラインを守れば海外旅行ができるようになるのだろうか。私にはガイドラインの先に海外旅行再開があるとはどうしても思えない。なぜなら検疫が海外渡航の大きな壁になっているからだ。この壁をぶち破らない限り海外旅行は再開されないと私は思う。

 5月15日付の時事ドットコムは、日本政府がPCR検査による「陰性証明書」を発行し、中国などへの業務渡航を容認する方向で検討に入ったと報じた。また、朝日新聞デジタルも「茂木敏充外相も22日の記者会見で、当面は今の措置を続ける方針を強調。その上で、まず経営者層や専門人材、次に留学生、最後に観光客など、段階的な緩和が必要との認識を示した。(中略)中韓は今月からビジネス目的の往来を一部で再開したが、PCR検査による陰性確認を条件にしている。中韓は日本にも同様の対応を求めるが、今の日本の検査体制で対応できるかは不透明だ」と報じている。

 周知のとおり、現在、日本でPCR検査を受けられるのは医師が必要と認めた人だけである。この検査制限をなんとかしない限り検疫の壁はぶち破れず、海外渡航の端緒となる業務渡航ですら始まらない。

 ではどうすればいいのか。PCR検査を拡充するとはいうものの、医師が必要と認めた人以外に拡大すれば、多くの人が検査に殺到し医療崩壊を引き起こすと政府は今でもいう。2~3月の時点ならともかく、現在は収まってきたとはいえ、無症状の感染者が市中に野放しになっており、その無症状感染者こそが人に感染させる確率が高いということが台湾やドイツの研究結果で判明した以上、徹底した検査と隔離へと明確に方向転換し、国民がある程度安心して過ごせるようにすべきである。

 徹底した検査と隔離を実践する韓国でも、感染者がゼロになったわけではないし、収束が見えたわけでもない。そもそもパンデミックは一国ではどうにもならない。しかし韓国は、徹底した検査と隔離で、市中感染が起きる可能性は一部を除いて極めて低い。その結果、韓国は、国民も大方は安心して過ごしているし、諸外国から信頼されている。台湾は早期に中国との往来を遮断した結果、感染者自体が少なく、リンク(感染経路)が追えない感染はほとんど起きておらず別の形で信頼されている。

 ところが日本は検査が極めて少なく、リンクが追えない感染者が市中にいる確率が高くて不安が渦巻いている。結果、日本は諸外国から不信感を持たれているのが現状だ。果たして緊急事態宣言は解除されたが、今のままで諸外国から信頼されるようになるだろうか。

 実際に検疫の壁を打ち破るイメージはこうだ。入国の際に唾液を使った抗原検査を行う。陽性者はホテルなどに隔離する。陰性者には陰性証明書を発行する。出国者は飛行機搭乗前に液を使った抗原検査を行い英文の陰性証明書を発行してもらう。IATA(国際航空運送協会)のいうところの「免疫パスポート」と同じ考え方である。簡単な検査キットが出てきているし、自宅で検査できるキットまで出てきた。技術的には出勤前の検査だって可能になるだろう。

 陰性証明書は感染していないことの証明にならないと反対する人もいるが、無症状感染者を市中に放置しておくより、徹底した検査で無症状感染者の隔離が進めば、市中感染する確率は格段に下がるはずだ。何も感染者をゼロにしようというのではない。感染者はほぼ確実に隔離されているという状態を作り上げて、日本社会への安心感・信頼感を築くのが目的である。

 来年はオリンピックがある。ワクチン頼みでは実施できるか非常に不安である。たとえワクチンができても世界中に行き渡る保証は全くない。一部の国だけでオリンピックはできるはずがない。ならば、オリンピックを開催できる別のオプションが必要だ。それを展望できるのは徹底した検査と隔離であると私は思う。

 医療のための検査から経済・社会活動の保証のための検査へと歩を進め、陽性者はホテルや大規模隔離施設を造り医療崩壊を防ぐ。陰性者には陰性証明書を発行する。入国に際しても徹底した検査と隔離を実施すれば、オリンピックも可能になるし、居酒屋をはじめとした飲食店も観光関連産業も安心して営業ができる。

 もちろん、こんな面倒なことをしなくても、このまま感染者数が収まって海外旅行も再開されればそれが一番いい。スペインは7月には日本を含む海外からの観光客を受け入れるという。しかし、日本に戻ってきた時に14日間の自主隔離なしで入国できるのだろうか。結局、検疫の壁を何とかしなくてはならない。

 旅行会社も今、営業を再開させ予約をとっても、秋以降に第2波、第3波が来れば収益にならない。経費が出ていくだけだ。そんなリスクを冒す余裕が私にはない。第2波、第3波を防ぎ、withコロナ下で持続的に海外旅行ができるようにするには、「徹底した検査と隔離&陰性証明書の発行」しかないと思う。その道を何とか探りたい。いい方法はないものだろうか。

原優二●風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。

関連キーワード