Travel Journal Online

EUが拒否したバウチャー返金

2020年5月25日 12:00 AM

 ドイツでは3月中旬にコロナ危機による外国旅行への警告が出されて以来、観光旅行は5月3日まで休止が続いた。ドイツ旅行業協会と旅行会社は流動性確保のために催行を中止したツアーの返金をバウチャーで代替できるよう政府に強く迫り、この案は4月2日に閣議決定され、欧州連合(EU)の了解を求めてブリュッセルに送られた。

 しかし、資金繰りの悪化など危機意識を募らせていたドイツの旅行業界は3週間も待たされた挙げ句、4月25日にEUの法務担当委員から明確なノーの回答が入り、新たな方策を探らざるを得なくなった。

 ドイツ旅行業協会によれば、3月中旬から4月末までの6週間だけでコロナ危機により48億ユーロ(5600億円)の売り上げ減少があり、旅行会社の資金流出を食い止めることが最重要課題となった。

 催行中止に伴う旅行申込者への返金35億ユーロ(4100億円)を、現金返済に代わる21年末まで有効で破産保証付き強制的旅行バウチャーで行う方策を例外的に認めるよう政府に要請した。バウチャーによる返金はEUパッケージ旅行指令にそぐわないが、オランダ、フランス、イタリアはすでに独断で実施しており、ドイツの旅行業界もEUからの否定的回答はないものと考えていたようだ。

 ドイツ観光経済連盟(BTW)もバウチャー案を支持し、元TUIのCEOで現BTW会長のマイケル・フレンツェルは、バウチャー解決策が通らないと大小2000社あるドイツの旅行会社で多数の破産が起こり、業界はいくつかの大手とOTAだけが生き残るだけで壊滅すると警告していた。すでにイースター(4月20日)までに消費者に多額の返金債務が生じ、旅行会社は外国のホテルや航空会社に支払い済みなので手元の残金も少ない。

 消費者団体は、「新型コロナ危機で多くの消費者も現金を必要としており、企業の流動性重視が消費者保護を越えてはならず、消費者は現金かバウチャーかを選択できるようにしなければならない。また、バウチャーの有効期間、弾力性、破産に対する保証など不明点も多い」と反対している。

 EUパッケージ旅行指令の催行中止ツアー返金条項に沿わないと欧州委員会が否定したことに対し、ドイツの旅行業界はバウチャーをすでに実施する加盟国があり、欧州でのフェアな競争が保たれず決定は受け入れられないと表明した。代替案も用意せず3週間待ちの姿勢でいたことで政府も非難されたが、EUの判断に反してバウチャーをごり押しすることはできず、別の解決策を数日で探らねばならぬ事態となった。

 そんななか、旅行会社を破産から守り、消費者に現金返済を可能にする旅行救済基金案が政治側から浮上した。 例えば夏の終わりまでの旅行キャンセルに国が流動性を用意するもので、すでにデンマークが導入しEUも異議を唱えていない。将来、旅行会社はパッケージ旅行予約時に定率を基金に積み立てる。これは国に返済することになり、納税者負担とならない。

 ドイツはイースターまで厳しい措置を実施し、感染拡大制御に成功している。4月19日から用心深く段階的な緩和措置を導入し、旅行を含むさらなる緩和措置は4月30日に5月3日以降の方向が示される予定だ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。