Travel Journal Online

政府に救済される旅行最大手TUI

2020年5月18日 12:00 AM

 新型コロナウイルスによる旅行制限で旅行者が自宅にとどまるようになって、旅行、航空、クルーズなど旅行・観光業の多くは破綻の危機に直面している。それを乗り切るために政府支援が求められるが、救済される企業には正当な根拠と経営の信頼性が必要だ。支援を求める企業にはケースバイケースの審査が行われるが、政府が納税者の税金でゾンビ企業を生き残らせるわけにはいかない。

 財政困難に瀕していた世界最大の旅行会社TUIは、4月8日にドイツ政府から6月までのつなぎ融資18億ユーロ(約2300億円)を得た。英国フィナンシャルタイムズはその合意と背景を以下のように報じた。苦境にある多くの同業者の中で、TUIは適切なタイミングで有利な処遇を受けたことになる。

 融資の前提になったのは、まず TUIの経営が健全であったことだ。昨年9月までの TUIの負債はEBITDA(利払い、税引き、償却前利益)に見合う比較的健全なバランスシートを保っていた。2月に更新された財務報告によると、TUIの純負債は20億ユーロを少し超えるが、最近の発表では約14億ユーロの現金と信用枠がある。そのリボルビング信用枠の金利は、ゼロに近いユーロの指標金利(EURIBOR)を1.5~ 2.0%上回るだけだ。

 政府の融資判断において同社の運転資金に問題がなかったことも重要だ。ホテルなどサプライヤーに対して顧客のデポジットで代金の支払いができていた。しかし15年以来、現金への交換日数が早くなっており、コロナ危機で迫られていた旅行取り消し顧客への巨額の払い戻しが、TUI自体のサプライヤーへのキャンセル料支払いと同時に発生したので、同社には緊急の金融支援が必要だった。

 3月9日には S&Pアナリストの格付け評価で、同社は「BB」から負債返済が危ういとされる「B」レベルまで格下げされた。TUIにはいくらか固定資産があり必要であれば売却できる。9月の時点でTUIのクルーズ船14隻が帳簿上125億ユーロ以上の価値があったが、ほぼその半分は2月にロイヤル・カリビアンとの合弁会社に売却された。所有するホテル300軒は16億ユーロ以上の価値がある。

 TUIは3月19日にほとんどのフライトと旅行予約も停止したので、仕事のなくなった社員には賃金などの50%を、仕事のある社員には30%カットを通達し、臨時客室乗務員は全員の契約延長を打ち切った。3月末にすべてのパッケージツアー、クルーズ、ホテルの運営を停止し、人材採用の凍結、ホテル、航空、クルーズ船に関連する費用の大幅削減を行った。

 TUIの打撃が特に大きいのは、人気デスティネーションであるイタリアやスペインの取り扱いが多いからだ。4月のイースターを挟む休暇期間には、4万8200便(1020万席)以上のフライトが計画されていた。

 TUIは英国政府にも財政支援を求めて協議中だ。英国の航空会社の一部には政府保証の融資が始まっている。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、この分野で世界の500万人が仕事を失うとして各国政府に旅行会社に対する無期限の無利子融資、1年の課税免除を求めている。TUIはドイツ政府の支援で窮地を脱したが、旅行会社の多くはWTTCが求める救済策が緊急に必要だろう。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。