旅のサステナブル認証 消費者に選ばれる事業者の要件

2020.04.27 00:00

持続可能な観光の推進へ旅行業者はどう向きあうのか
(C)iStock.com/Petmal

ツーリズム産業における持続可能性の強化と獲得は、理念をお題目として唱えていればよい時代は過ぎ去った。近い将来、ビジネスの必須要件となることは間違いない。その流れを加速する認証制度の立ち上げが国内外で進んでいる。

 観光庁が今年度の導入を予定する「持続可能な観光指標」の英語名称が「Japan Sustainable Tourism Standard for Destination(JSTS-D)」に決定した。日本語名称はこれから決定されるが、持続可能性(サステナビリティ―)を測る観光指標の立ち上げが目前に迫る。JSTS-Dが正式に立ち上がった後は、観光庁のモデル事業として全国のいくつかの自治体で先進的に取り組まれる見通しだ。

 観光におけるサステナビリティ―の重要性が世界的にクローズアップされるなか、観光庁は昨年、「持続可能な観光指標に関する検討会」を立ち上げ、指標の基本的な枠組みや内容について検討してきた。その結果、指標に基づく各観光地の取り組みが海外からの評価に結びつくよう、国際的な指標や認証システムに準拠させることなどの基本方針を決定。準拠する指標をグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)とすることも決めた。

 GSTCは08年に世界50以上の団体が連合し、持続可能な観光の国際基準をつくるために発足した。その後、世界観光機関(UNWTO)などの呼び掛けによって、持続可能な観光の共同理解を深めるために活動する協議会となり、旅行業や宿泊業など観光産業向けの指標「GSTC-I」と観光地向けの指標「GSTC-D」を開発した。日本版「持続可能な観光指標」が準拠する国際的な指標をGSTCとした理由は、UNWTOにひもづく唯一の国際的機関がGSTCであるからだ。

 持続可能な観光指標の導入が急がれる背景には、国連が採択した持続可能な開発目標(SDGs)への旅行者を含めた世界的な意識の高まりがある。ブッキング・ドットコムの調査では、サステナブルな宿泊施設を選ぶ重要性を認識している旅行者の割合は全体の87%に上っており、環境に優しい宿泊施設を選ぶ意向を示す旅行者は70%に達している。欧州におけるフライトシェイム(飛ぶのは恥)の動きも旅行者の意識の高まりが背景にある。ツーリズム産業はSDGsや環境を意識しなければ成立しない時代に向かいつつある。

 持続可能な観光指標に関する検討会では、出席者から「海外、特に欧米では旅行先の観光地域を選ぶポイントとして、SDGsへの取り組みを行っているか否か、ということがある。10年後にはSDGsへの取り組みをしていない観光地域は淘汰されていくだろう」との指摘もあった。

大手OTAも相次ぐ認証立ち上げ

 いち早く動き出した国もある。35年までのカーボン・ニュートラルを目指すフィンランド政府は、19年夏に認証制度「サステナブル・トラベル・フィンランド」を立ち上げた。持続可能な旅行に積極的に取り組む旅行サプライヤーや地域の事業者を認証し、消費者や旅行会社が利用する事業者を選定する際の目安にできるようにするのが狙いで、現在は試験運用の段階にある。認証の対象はホテルやバス会社、DMOなどで、認証を取得した事業者はフィンランド政府観光局が全世界で行うプロモーションで積極的に取り上げてもらえるといったメリットがある。

 民間も動いている。大手OTA(オンライン旅行会社)のブッキング・ドットコムやトリップ・ドットコム、メタサーチのスカイスキャナーやトリップアドバイザーといった旅行IT事業者と決済大手のビザは今年2月、グローバル・パートナーシップとして「トラバリスト(Travalyst)」を共同で立ち上げるとともに、サステナビリティーの実現に向けた旅行関連事業者の取り組みに対する評価制度の開発に着手した。宿泊施設、航空、体験サービスの3分野での制度設計が進行中で、最終的には旅行予約を行うすべてのプラットフォームのユーザーが参考にできる点数評価制度を目指すという。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年4月27日号で】