原優二のコロナ奮闘記vol.4

2020.04.20 17:40

 5月6日はゴールだろうか。それで緊急事態宣言は終わるのだろうか。そう思う人はもはやいないだろう。しかし、緊急事態宣言を発した時の政府は「2週間が勝負」と言い、「1カ月だけ我慢してくれ」とまでは言わないまでも「少しの間我慢してほしい」という印象を振りまいた。

 仮に感染者の山が低く抑えられ一旦は収束に向かったとしても、行動制限がなくなるわけではない。ましてや旅行の仕事は当分戻りそうにない。感染症の専門家たちは長くて苦しい闘いになると言い続けているが、政府は補償の問題に終始し、10万円を一律給付するから緊急事態宣言を全国に広げるといういわば交換条件のような手法まで採った。

 そういえば、2月の前半は国会で桜を見る会ばかりやっていた。1月下旬には発熱外来を作り始めていた韓国政府とは雲泥の差である。全く危機感のない日本政府と、政府の揚げ足ばかり取って対案を示せない野党に腹立たしさというより情けなさを感じる。

 日本中の個人営業主、フリーランス、契約社員、中小企業の経営者とその社員、そしてさまざまな境遇に置かれている多くの人々が、収束が見えず大きな不安に苛まれている。

 長い闘いになるなら、そういう戦略を国が立ててほしい。進むべき、道を示してほしい。我慢はするから、こうすればトンネルを抜けられる。抜けられないまでもこんな生活ができる。ウイルスと共存するしかないならその世界を示してほしい。

 目先の10万円でも逼迫した生活が救われる人々がいることは確かだ。そのことは否定しないが、一時のカンフル剤に過ぎない。国家を救うには、お金を超えた国民の意思が必要だ。いま必要なのは、国家が進むべき道を示すことができる哲学である。

 ドイツのメルケル首相は3月21日の国民に向けた演説の中で以下のように述べた。「私は皆さんに保証したい。自由に旅行し移動する権利を得るのがとても大変だった私のような人間に言わせれば、こうした制限は絶対的な緊急時にしか正当化されません。民主主義社会では決して軽々しく発動されてはならず、暫定的でないといけない。しかしいまは多くの命を救うために欠かせないのです。(中略)私たちがこの危機を克服できることに、私は全く疑いを持ちません。しかし、被害者はどれほどになるのでしょう。愛する人たちを何人失うのでしょう。答えはほぼ私たちにかかっています。いますぐ皆で一緒に決定的な行動を起こせます。現在のさまざまな制限を受け入れ、互いに支え合えるのです」(朝日新聞デジタルより)

 メルケル首相は東ドイツの出身である。難民問題など多くの困難に直面しながら、ドイツは、EUは、そして世界はどう生きるべきかをずっと考えてきたに違いない。

 旅行の仕事が何時できるようになるかは全く不透明である。日本政府に文句を言っている私は、果たして社員に進むべき道を示せているだろうか、はなはだ疑問である。必死にもがいてはいるが、いまは5月6日までは様子見しかできない。もちろん、いくつかの選択肢を徹底的に探るのが5月6日までの私の仕事である。何とか道を見つけたい。

原優二●風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。

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