2020年4月6日 12:00 AM
新型コロナウイルスの感染拡大が世界中を混乱させている。各国政府による行動制限や経済活動の縮小で、企業活動に与える影響は甚大だ。なかでも、観光・旅行産業のダメージは深刻で、多くの経営者が危機感を募らせている。
原稿を依頼された2月末から締め切りを迎えた3月17日の間にも新型コロナウイルス感染拡大の様相は大きく変化し、この原稿も一から書き直さざる得ない状況になってしまった。このこと自体、今回の感染拡大の大きな特徴である。
人類は経験したことのない予測不能なリスクに直面して世界中が戸惑っている。わが国では2月27日に安倍首相より小中高をはじめとして臨時休校の要請がなされ自粛への道筋が決定的になった。2月末時点で当社の主力方面である欧州の反応、対応は鈍く、誰も方向性を見極められず、混乱の中にいた。その典型が3月に行われた世界最大の旅行見本市ITBベルリンである。
ITBはドイツ政府のイベント自粛の要請を知りつつも開催を最後まで模索した結果、4日前に中止を発表、併設されていたARIVAL(着地型ビジネスの会議)に至っては2日前の中止だった。私自身もその1人だったが、ベルリンには急なイベント取りやめに戸惑う人たちがあふれた。
私が初めて新型ウイルスによる直接的な影響を報告されたのは1月最後の週末、中国政府が1月25日全国民に対して海外団体旅行を全面禁止し、当社取り扱いの中国発海外ツアーが全面的にキャンセルになるとの知らせで、折しも中国は春節、1年間を通して取り扱いもピーク、そんなタイミングの出来事だった。失われる売り上げも懸念されたが、オフィスが長期休暇の中でキャンセル作業が行えるのかが喫緊の問題となった。
幸い当社の上海、広州、北京の3営業拠点以外にマレーシアに手配を集約しており、また旧正月の取り扱い増に備えて休日シフトを敷いていたため、比較的スムーズに応急対応ができた。しかし、その後中国政府は2月9日まで祝日を延長、旅行会社の機能も完全に停止し、われわれランドオペレーターにキャンセルの指示という最低限の連絡もないなか、手探りでキャンセル作業を継続せざるを得ないありさまだった。
この時点で私の認識も感染はアジア中心、わが社の主要デスティネーションである欧州への影響は軽度、影響は限定的という認識で、現在われわれが直面するような状況は愚かにも全く想定外だった。3月11日に世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言、3月第3週には欧州方面で爆発的に感染は拡大する。それまで警戒されていたイタリアでは外出禁止に加え特定業種を除く商店が閉鎖された。同時にスペインで感染拡大が顕著となり、バルセロナで休校、フランスも1日遅れで緊急事態宣言が出された。前週まで楽天的であったラテンの人々から笑顔が消え、町では食料品をはじめとした物資が不足、人々の買い占めも品薄に拍車をかけ、自ら危機感をあおっている。
3月上旬、私がロンドンから帰国する際、ヒースロー空港では消毒用ジェルを求める人々が薬局に列をなしていたが、翌週その人混み自体消えていると聞いた。私はここに至って始めて感染の底知れぬ規模感とその影響の甚大さに恐怖した。
現在各国で発令される人々の移動と集会の制限は人々の交流を生業とする旅行業自体の停止を意味している。ウイルスの侵入を防ぐための国境封鎖は海外旅行自体の受け入れの否定で、飲食を伴う集会の自粛は国内旅行においても人々の動きを止めてしまった。
当社は11年の東日本大震災の経験から市場、送客方面を拡大して単一市場、商品依存体質からの脱却を目指し、グローバルな事業展開を行いリスクに強い、より安定した会社経営を目指してきたが、今回の危機はわれわれの想定を軽々と超えダメージを与えている。
【続きは週刊トラベルジャーナル20年4月6日号で】[1]
檀原徹典●ミキ・ツーリスト代表取締役社長。1987年入社。マドリッド支店長、ヨーロッパネットワーク統括、ミキトラベルリミテッド(ロンドン)取締役、ミキ・ツーリスト取締役営業本部長を歴任し、2011年から現職。ミキグループを統括するグループミキホールディングスのディレクターとCEOを兼任する。
【あわせて読みたい】新型コロナ禍に負けない 何ができるか、何をすべきか[2]
Copyright © TRAVEL JOURNAL, INC. ALL RIGHTS RESERVED.