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創造的復興へ官民一丸の熊本 震災前を超えた観光地へ

2020年3月30日 12:00 AM

熊本城は復旧過程を見せる観光コンテンツ化が進む

16年4月の熊本地震から丸4年を迎えようとしている。観光施設や交通インフラの完全復旧に向けた取り組みが続けられるが、いま熊本では震災前よりも発展的に観光振興を図ろうとする機運が高まっている。官民一丸のキーワードは、創造的な復興だ。

「ようこそ熊本へ。まずは、日本でも世界でも有名で優秀な私の部下をお呼びします」

 2月12日に熊本県で開かれた全国旅行業協会(ANTA)の国内観光活性化フォーラム。蒲島郁夫知事がそう呼びかけると、県PRマスコットキャラクター「くまモン」が登場しかわいらしいダンスを披露、会場を沸かせた。

蒲島知事はくまモンとプレゼン

 くまモンはいわずと知れた熊本、日本を代表するキャラクターだ。日本リサーチセンターによる全国キャラクター好感度調査では16~18年に首位をキープ。18年の2位は「となりのトトロ」、3位がディズニーの「ミッキー&フレンズ」と続く。そうそうたるキャラクターを抑えての首位維持は、圧倒的な存在感を示していることの証といえる。

 熊本では16年4月に発生した熊本地震の爪痕がいまだ残る。熊本城は修繕作業が続き、立ち入りは規制され、市中心部から阿蘇地域などへの交通インフラも完全に復旧していない。

 一方で、16年の県の延べ宿泊者数は725万5180人だったが、19年には16年比7.5%増の780万1520人と数の上では震災前を大きく上回る水準となっている。特に訪日客は78.2%増の92万4580人となり、観光の成長をけん引する存在となっている。

 こうした訪日誘致にも寄与しているのがくまモンで、県では近年、海外進出も積極的に進めており、海外企業の商品製造・販売を解禁したほか、外国語版のアニメ制作や、動画投稿サイトでのチャンネル開設など戦略的に展開を図っている。

空と海の玄関口で攻めの姿勢

 ANTAのフォーラム開催時、日韓関係の冷え込みによる訪日旅行控え、新型コロナウイルスの肺炎問題が懸念材料となっていた。18年の県内の延べ宿泊者数を国・地域別シェアで見ると、韓国は36.9%、中国・香港・台湾は50.4%となり、合わせて9割近くを占め、影響は大きい。

 しかしフォーラムで20年代のさらなる飛躍を疑う声がほとんど聞かれなかったのは、長期的な訪日需要の高まりに加え、今後も官民で意欲的な取り組みが続くからだ。

 キーワードは「創造的復興」。この言葉は被災以降、観光や住民生活、各産業、インフラなどで復興の合い言葉のように幅広く使われてきた。

 中でも観光は重要な要素となっており、目玉となるのは、空と海の入り口の強化だ。熊本空港は4月から民営化をスタート。国際線では現在の4路線から、27年度には11路線、51年度には17路線に増やすことを目指す。17年度の旅客数は334万人だが、51年度には622万人に倍増させる目標設定となっている。

 また、同月には、国土交通省の国際クルーズ拠点港に指定され、国、県、ロイヤル・カリビアン・クルーズ(RCI)の3者が整備を進める八代港がグランドオープンする。クルーズ専用岸壁や旅客ターミナルを整備し、九州の大型クルーズ船の受け入れ拠点化を目指す。阿蘇地域を市街地と結ぶ国道57号も今年度中に完全復旧する見通しで、明るい話題が続く。

 観光素材としては、もとの姿を取り戻すまでには20年かかるといわれる熊本城の観光利用が進む。昨秋には第1弾の特別公開、4月29日から第2弾を予定し、随時、公開範囲や公開日を広げていく。ミュージアムのプロジェクションマッピングによる被災や復旧状況を最新技術で見せる取り組みなどを駆使しながら、まさにいましか見られない熊本城をコンテンツ化する取り組みだ。

県庁前のワンピース像

 東アジアで圧倒的な人気を誇る漫画「ワンピース」の作者・尾田栄一郎氏は熊本市出身。各キャラクターの銅像を県内各所に設置し、周遊性を高める取り組みも進められている。

変わったのは意識

 こうした動きに対し、九州産交ツーリズムの森崎正之取締役は、「前向きに捉えれば、地震が起きたからこそ、ここまで熊本に人を呼び込む観光振興に積極的になれた」と語る。例えば、同社の取り扱いは震災前は主に熊本発の海外旅行や国内旅行が主体だった。「これまでインバウンドに挑戦することはあったが、なかなか実を結ぶことはなかった」(有元隆取締役)という。

 力を入れたのは、バスと温泉・食事を組み合わせた路線バスの旅で、海外の旅行会社への営業や、多言語対応ができるスタッフの配置などインバウンドへの取り組みを強化。個人客ではなかなか行けない場所に安価に行けることで人気が高まっているといい、韓国・コロナ問題が起きる前は7~8割ほどが外国人だったという。

 森崎取締役はこうした商品は利益率がそれほど高くないとしつつも、「われわれはずっと地元に住んでいる。逃げることはできないし、地元にもっと貢献したい気持ちが強まった」と振り返る。今後は留学生をガイドに採用したコンテンツや、昨年10月にオープンし同社が指定管理するミオカミーノ天草の積極利用も呼びかけていく。

震災後の取り組みを語る有元取締役(左)と森崎取締役

 創造的復興が進み、順風満帆に見える熊本観光だが、課題もある。まず、くまモンのキャラクターそのものの圧倒的な知名度が独り歩きして、熊本観光そのものが付いてきていないという意見だ。くまもとDMCの林田誠也常務取締役は「くまモンは訴求力のある非常にいいコンテンツ。しかしわざわざ遠方から熊本に来て、全員がくまモンのお土産や関連施設を見るだけで満足するといえば難しい」と話す。

 くまもとDMCは、16年12月に震災復興を加速させる目的に誕生した地域連携DMOだ。これまで100以上の着地コンテンツを創出してきたが、「ビッグデータなどを活用したマーケティングによる観光振興も苦戦しており、施策の高度化に向けてブラッシュアップしていく必要がある」(同)。一方、19年には欧米豪市場に人気が高いラグビー・ワールドカップや女子ハンドボール世界選手権大会などがあったことを振り返り、「こうした成功事例をもっと分析し、海外の人を呼び込むような強力なコンテンツづくりを推進していきたい」とし、くまモンの知名度に並ぶ着地コンテンツづくりに注力していく考えを示している。

熊本城のふもとにある桜の馬場城彩苑。お土産やミュージアムがあり城下町の魅力を伝える