観光のイニシアチブ 行政主導か民間主導か

2020.03.23 00:00

観光とは行政主導なのか民間主導なのか……それが問題だ
(C)iStock.com/tomertu

いまや国の基幹産業の1つに数えられる観光産業だが、そのイニシアチブを握るのは行政なのか民間であるべきなのか。欧米の観光先進国では明確に民間主導だが、観光に関して“発展途上国”の日本では、イニシアチブのありかは曖昧だ。観光を主導する力はどこに求めるべきなのか。

 わが国は03年の観光立国宣言以降、行政主導による観光振興が図られインバウンドを中心に成果を上げてきた。それ以前は行政は観光に無関心であり、インバウンドのいわば暗黒時代。1960年代末から世界2位の経済大国を築き上げた日本にとって、外貨収入とは製造業の輸出を中心とする貿易収入であり、観光による貿易外収入拡大への関心はゼロに近かった。それどころか、貿易での儲けすぎ批判をかわすために海外旅行を促進して黒字減らしを図ろうとの国策が取られたほどだ。その結果、訪日外国人旅行者は伸び悩み、2003年時点の訪日外国人旅行者は約521万人にとどまっていた。

 この流れを変えたのが政府による03年の観光立国宣言と、その後の行政主導の強力なインバウンド振興策だった。03年には世界に日本の魅力をアピールするビジット・ジャパン事業が官主導でスタート。06年には国を挙げて観光振興を図ることを法律で定めた観光立国基本法が成立。08年には観光施策の推進を司る国の行政機関として観光庁が設置された。09年には中国で個人観光ビザの発給を開始し、以降も各国に対するビザ発給の規制緩和が図られ、インバウンド急増の原動力となった。

 2000年代までの日本のように、何の基盤もないインバウンドの黎明期には、行政主導の取り組みは極めて大きな力を発揮した。ビザの規制緩和はその象徴で、そもそも外国人が容易に入国できないのであれば、インバウンド振興などできない相談。また、道路標識や観光案内標識の多言語化もされておらず、鉄道等の交通機関の各種表示も統一されていなかったインバウンド黎明期に、行政主導で受け入れ環境のインフラ改善が進められた効果も大きかった。

 ビザの緩和もインフラ改善も行政が主導しなくては到底実現できないものであり、その意味では行政主導型がインバウンド黎明期にマッチしていたことは間違いない。しかし訪日外国人旅行者数が3000万人を超え、世界11位のインバウンド大国にまで成長したいま、これまで通りの行政主導が成果を上げ続けられるかは大いに疑問だ。

 もちろん行政側も民間との協力体制づくりの必要性を認識し各種取り組みを行っている。最も力を入れるのがDMO(観光地経営組織)の形成・育成だ。行政と民間の間に立ち、観光で地域が稼げる仕組みづくりや環境整備の司令塔役を担い、地域経済の成長と活性化を図る組織としてDMOが期待される。

 しかし現実的には、国、日本政府観光局(JNTO)、DMO、自治体の役割分担は不明確であり、取り組み内容の重複がみられる。このためDMOが効率的な活動をするに至っていない問題点は、観光庁の「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」の中間報告(19年3月発表)の中でも指摘されているところだ。

 欧米先進国におけるDMOは、もともと観光関連事業者による民間の発想で発足したものが多い。このため自主財源や自立的運営を強く意識した組織を形成し、行政とは一定の距離を保っている。ところが日本では、最初から行政主導でDMOの設立が促され、行政が認定し、行政の補助金に大きく依存する枠組みができつつある。

 加えてDMOの人材不足によって、結局は人材も行政からの出向者に頼らざるを得ず、人的な継続性や活動の継続性・一貫性にも疑問符が付きかねない。このため看板をDMOに掛け変えただけで、これまでの行政主体の観光協会と何ら変わりがないとの観光関係者からの指摘も数多い。

 地方自治体も手っ取り早く観光振興の形を整えるため、外部のコンサルタントなどに事業計画を委託し、予算や補助金を獲得することが目的化しがちだ。このため予算の無駄遣いも懸念される。

 行政が観光戦略を策定し、戦略に基づいて予算を立て、これに民間事業者が群がる構図では、観光振興の実効性が上がらないのも無理はない。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年3月23日号で】