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DMO東京丸の内の藤井事務局長が語るMICE誘致へのエリアマネジメント

2020年3月16日 12:00 AM

日本観光振興協会は第7回観光経営研究会を開き、DMO東京丸の内の藤井宏章事務局長が、同エリアのまちづくりやMICE誘致へ向けた取り組みについて語った。

 観光庁がDMO施策を進めていますが、DMO東京丸の内は実は観光庁の登録法人ではありません。というのも、生い立ちが少し違っており、MICEの誘致を専門に誕生したという背景があります。この類のDMOは都内にはDMO六本木、最近できたDMOゲートウェイ新品川があります。

 私自身、現在も三菱地所に籍を置いていますが、エリアのソフト面の活用を推進するエリアマネジメント推進室長を務めています。また、エリアマネジメントの実際の活動を推進するNPO法人の大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)の事務局長も兼務し、この協会が事務局となってDMO東京丸の内を設置した経緯があります。DMOには地区のほとんどのホテルや域内のコンベンション施設の運営者が集まっています。

 まちづくりの話をする際、エリアマネジメントを耳にすることが最近は多いと思いますが、この言葉はある地域で民間が主体となって「こういうまちをつくっていきたい」とビジョンをつくって、行政と連携しながらハード・ソフト両面で整備していく活動を指します。

 もともとは、面としての価値向上を図るという目的が根底にあります。もう1つの側面には、不動産事業者が1つのビルを立ち上げるなかで、通常はある規制の範疇でしかできませんが、エリアの地権者が集合体となって大きなビジョンを描くことで公的な主体性を持ち、規制緩和を実現させるなどダイナミックな動きができるようになります。近年、イベントなどの道路活用が進んでいるのも、1つの民間事業者でなく、エリアマネジメント団体だからできるという部分もあります。

 大丸有エリアマネジメント協会ができたのは02年ですが、ここ数年は活動が活発化し、エリアマネジメントに対する期待も高まっています。背景には不動産事業者の事情としてはオフィスを貸し出していますが、いまやどこのオフィスも立派で、差別化ができないことがあります。むしろ、SDGs(持続可能な開発目標)の推進や多様化する社会課題にエリアとして取り組み、そのまちの魅力を向上させることが、重要視されるようになってきました。

 そうした動きの一つとして、経済活性化のためにエリアとしてMICE誘致に取り組んでいるという側面もあります。

 また、国家戦略特区の制度などで道路も使いやすくなってきました。15年には丸の内仲通りも指定を受けて、日中に歩行者天国として活用しやすくなりました。それまでのエリアマネジメント団体は活動場所がありませんでしたが、こうした国の方向性もあいまって道路などを活動の場とする動きも進んでいます。

関係企業・団体でまちづくり

 DMOの対象範囲である大丸有は大手町、丸の内、有楽町の総称ですが、約120ヘクタールに4300企業が集積し、毎日28万人が働いています。

 この地区は高度経済長期に赤れんがが近代的なビルに建て替わりましたが、その後、空調など設備の老朽化が進み、周辺の都市はITを取り入れた新しいビルが増え、古いビルが多いイメージを持たれるようになっていました。そのようななか、エリア全体をどうしていくかということで、1989年に地権者による大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会ができました。

 その後、協議会、千代田区、東京都、JR東日本で大丸有まちづくり懇談会を96年に結成し、2000年には官民で共有するまちづくりビジョンを策定。ガイドラインにはビジョンに加えて、それを実現するためのルールと手法も盛り込まれ、ビジョンの中の主にソフト面を推進する主体として02年にリガーレが設立されました。

 エリアマネジメントのテーマは重層化していて、もともとは米国ではお金を持ち寄って清掃や警備、イルミネーションなどを主にやっていましたが、われわれはそれだけにとどまらず、景観づくりや地下のネットワークづくりや広告マネジメント、にぎわいづくりなど多岐にわたっています。

 MICEの誘致に関しては、人が集まって何かを生み出していく活動を活発化させていく必要があるだろうということで、単に誘致して数を増やすだけでなく、エリア全体を使ってもらえることを念頭に活動しています。これからはスタートアップや若い企業の知恵やアイデアを持って、新しい血をまちに取り込んでいくことも大切です。テナント誘致もそういった企業が入れるような工夫もしています。

ハード・ソフトを一体的整備

 丸の内仲通りのハード整備では路面をコンクリートから石畳に変え、緑豊かな植物を植え、ベンチや照明、広告のフラッグ、ハンギングバスケットなども設置し、歩行空間を豊かにしました。天井部はあまり威圧感を持たれないように低めの31mで揃えており、非常に整然としています。区との協議のたまもので、民地と区道の境目もほとんど分かりません。

 もう1つのポイントは地下のネットワークを充実させたということ。必ず隣接するビルとつながるようにガイドラインで定めており、これもまちの価値を上げる取り組みです。

 ソフト面の取り組みを推進するのは、これからの時代、大切なのは就業人口ではなく交流人口が大切だからです。ビジネスでも観光でもショッピングでも、エリアに人を呼び込む活動は重要です。鍵となるのは公的空間をいかにつくっていくのか。ひとつのきっかけとなったのが、約6000人が参加した14年の国際法曹協会(IBA)の東京大会でした。会場に閉じこもらないように、仲通りに5時から22時の間は車両規制を敷き、いすとテーブルを設置しました。夜にはジャズの演奏を行うなどしました。これが大変評判がよく、その後、協議を重ね国家戦略特区に指定されました。

 仲通りでは日中は交通規制をし、リガーレがその運営を担っています。毎日いすやテーブルを出して、キッチンカー出店の手続きなどをしています。ラジオ体操や企業対抗の綱引き大会、企業のイベント、クラシックコンサート、打ち水、盆踊り、食、スポーツなどさまざまなイベントを開催しています。3日に1度の頻度で何らかの催しを行っていますが、これらはリガーレが関係者や警察などの間に入って細かい協議を重ね、実現させているものです。その際には、イベント主催者からはまちづくり協力金という形で数十万、数百万円をもらっています。

ユニークな空間と体験

 こうしてまちづくりを進めていくなかでMICE誘致も必要ということで、DMOの組織づくりも進めてきました。東京には東京観光財団(TCVB)がありますが、細かいところまで見切れないということで、地域ごとの拠点の育成に取り組み、DMO東京丸の内が17年に発足しました。

 会員は現在、正会員28団体、賛助会員3団体が加盟していて、現在のキャパシティはホテル客室数が2682室、会議室は174室、ユニークべニューが13施設となっています。

 都心型エリアMICEというのは、エリアには会議もパーティーも遊びも宿泊もすべてできるという大きな施設はないので、エリア全体でサービスを提供していきましょうということです。当地区の開発ではオフィスと商業機能のほかにカンファレンス機能が備わっているケースが多いのですが、個別に誘致活動をしてもいいのですが、連携することで可能性が広がってくることも期待されます。その方がまちへの経済波及効果もあります。

 こうした施設間の連携を可能にするのは、事務局をエリアマネジメント団体がやっているという点です。1つの民間企業がワンストップ窓口をやりにくいという事情があり、中立的なエリアマネジメント団体が事務局を担うことでワンストップの窓口やサポート機能を持たせることができるのです。

 常にまちづくり目線で誘致を進めていて、参加者だけでなくまち側のメリットを享受できるように考えています。建物だけでなく、道路や公園も積極的に活用しています。

 いま重点的に取り組んでいるのはユニークべニューの開発・掘り起こしです。通常使えないところを利用できる仕組みをつくる。例えば、仲通りをレセプションの場として活用できないかということで、長テーブルを並べて、パーティーに見立てたイベントも行いました。アルコールは禁止なのでノンアルコールで気分を味わえる飲み物を用意したり、行政諸官庁との調整も大変でした。

 昨年5月には本物の芝を張って道路を公園にしました。その時はビル内で国際会議をやっていて、外国人に経木で包んだおにぎり弁当を振る舞いランチを楽しんでもらいました。寺社仏閣も活用しようと神田明神とも連携を進めています。

 ファムトリップで訪れたプランナーに利き茶や利き酒といった日本文化の体験などを提供したことがありますが、こうしたコンテンツはいろいろな種類をたくさん用意するようにしています。また、都心だけでなく田舎も体験してほしいということで、南房総に日帰りで案内する取り組みも行いました。

 誘致したMICEの開催をまちの人に知ってもらうために通り沿いのフラッグを活用したり、巡回バスの車体に広告を打ったりするなどのシティードレッシングも併せて実施しています。

 最近力を入れているのは、会員やDMC、関係企業などとのネットワーキングです。DMOのみのプロモーションには限界があるので、関係企業にDMOの取り組みを理解してもらうと、ネットワークを通じて紹介を受けることもありえるからです。DMOは発足して1年半ですが、18年度は14件、19年度前期は12件を成約・支援しています。まだ大きな規模は取り扱っていませんが、小さい事例や実績を積み上げて、しっかり訴求し、良い循環をつくっていきたいと思っています。

ふじい・ひろあき●1985年、三菱地所入社。丸の内再構築プロジェクト、ロンドン駐在を経て、開発推進部理事・エリアマネジメント推進室長。大丸有エリアマネジメント協会事務局長も務める。