2020年3月16日 12:00 AM
近頃テレビでよく見かける大盛りや激辛メニューを平らげる企画。お皿をぐちゃぐちゃにしながら苦しそうに食べるタレントの姿を見て思う。
「おいしくなさそう……」
なんでもともとおいしそうなものをあんなに辛そうに食べなければいけないのか、そしてそれを見るのが面白いのかがわからない。逆になんでもおいしそうに食べてる人を見ると、それだけで番組の好感度爆上がりである。
文章の世界でいうと、食エッセイの書き手ではいまも東海林さだおが最強だと思っている。機内食やペヤングや焼き鳥についてのんびり語るその文章は、どんなエッセイやタレントの食レポよりおいしそうだし、食にまつわる記憶の描写、食をフックにした想像力の豊かさに毎回新鮮に驚かされる。
なんだか前置きが長くなったが、今回ご紹介するのはその「食にまつわる記憶」が秀逸な「食エッセイ界の遅咲きの新星」(書籍紹介より)の初エッセイ集だ。誰でも文章や写真、動画を投稿できるクリエーター向けサイトnote掲載の文章に加筆したもので、人生で接してきた食の風景や味を明るいタッチで描き、レシピも添えられている。
味が評判の居酒屋を運営していただけあって、レシピはどれもおいしそう。エッセイの内容は正直ばらつきもあるけれど、リアルな生活感のある感じがとてもいい。食べものが好きで、料理するのが好きで、人が好きな人の文章だなあと思う。タイトル作のほか、「煮える寿司」「母親のチャーハン」などタイトルも秀逸。特に気に入ったのは「くずし餃子の野菜炒め」。高校時代の友人Kちゃんのオリジナルレシピが生まれた意外な理由、それに対する著者の温かい目線にほろりとさせられる。
というわけで旅とはなんにも関係ないんですけど、食いしん坊さんはぜひ。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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