Travel Journal Online

ヘイズ夫妻の決断力とビジネス感覚

2020年3月2日 12:00 AM

 昨年9月23日にトーマスクックの倒産が発表され全世界に衝撃を与えた。そして、10月9日、トーマスクックの英国の全555店舗をヘイズトラベルが買収する契約が、ヘイズと破産管財人、清算人KPMGとの間で締結されたことが公表された。

 トラベルウイークリーによれば、ヘイズはトーマスクック全店舗をヘイズの名前で直ちに再開するべく、設備、備品を含めて全店舗の賃貸契約継続を全家主とすでに交渉中だった。そして英国トーマスクック社員2500人全員の雇用を提案した。

 ヘイズトラベルはイングランド北東部の都市サンダーランドが本社で、HPによれば、北部中心に180店舗、従業員1700人、在宅エージェント240人を抱える店舗営業主体でホリデイパッケージ、クルーズ、航空券などを販売する伝統的旅行会社である。18年の総売上高10億4000万ポンド(初めて10億ポンドを超えた)、営業収入は900万ポンドであった。会長アイリーン、社長ジョンのヘイズ夫妻の個人経営で、1980年に母親の子供服店の片隅から起業。40年の歴史を有し、「英国最大の独立系エージェント」と自負している。

 TWによるインタビューで、ヘイズ夫妻が明らかにしたのは概ね以下のとおりである。

・店舗買収が決定する前に、すでにトーマスクック社員597人の採用を決めていた。従来から関係は良好で、失職する社員への同情の気持ちは自社の社員ともども強く全員を歓迎したい。

・トーマスクック社員はインターネットは敵と思っていたかもしれないが、当社社員は友人だと思っている。インターネットと店舗は相互に補完する効果的な営業手法である。

・経営陣と社員との信頼関係は創業以来緊密かつ家族的で、この企業体質が営業を支えている。

・契約上、買収価格はいえないが、清算人、当社、双方にとっていい取引だったと思う。この件での借入金はない(実際には10月末、議会審議の場で総額600万ポンドと公表された)。

 同時期に2人を取材したガーディアン紙記者は、一見田舎風で庶民的な夫妻の外見に隠された決断力と鋭いビジネス感覚に驚きを隠していない。3週間に渡る管財人とKPMGとの交渉に、業務と経営数値に精通した夫妻は助言者なしに2人だけで対応した。ジョンはトーマスクックの高コスト体質と階級制度を是正すると示唆した。2人は今後の経営に並々ならぬ自信を表明し、業界からも今回の勇気ある決断を賞賛する声が多い。

 その後の展開も迅速で、11月21日のトラベルウイークリーは、この時点でトーマスクック555店舗のうち450店舗を開店し2330人を雇用、全社で737店舗4200人体制となったが、さらに社員と実習生1500人を募集中で最終的に社員5700人を目指すと報じている。トーマスクックは航空会社やホテルを有する巨大国際旅行会社だったから、ヘイズが継承したのはその一部のリテール部門だけだが、英国内ネットワークでは、ヘイズはすでに最大手のTUI(19年リテール店564)も凌駕している。

 しかし、今回の決断の評価は今後の実績次第である。OTAが席巻している旅行産業でさまざまな課題を乗り越えて、伝統的旅行会社の復権の契機になってくれることを期待している。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。