トゥー・マッチ トゥー・コンビニエンス

2020.02.24 00:00

 12月にフランスを訪れた際、日本ではすっかり馴染みの薄くなった鉄道のストライキに遭遇した。仏国鉄SNCFの年金改革に反対した国鉄職員のスト、と聞いてはいたが国鉄だけでなく地下鉄もバスも止まっている。それどころか調べてみたら、警察が高速道路の交通整理を放棄していたり公立病院職員が救急病院でストをしていたり、交通だけでなくあちこちの公共機関がストモードである。鉄道のストならば、とバックアップで予約したエールフランスも結局運休になり、TGVで2時間のリヨンまで、8時間かけて車で行く羽目になった。

 これだけすべてが止まってしまうと相当に日々の生活に影響もあろうし、ストの矛先となっている政府やストをしている労働者にもかなりの批判が向けられると思うのだが、さすが革命の国フランス。しょうがないなという顔はするもののどこか鷹揚に構えている。実は自動運転が行われている地下鉄2路線は普通に動いていて、この最寄り駅から長距離歩くプランで健康増進を考える人、いっそこの際テレワークに踏み切る会社など、何となくプラス思考だ。

 結局このストは何と48日間にわたり、年が明けて翌月私が再びパリに到着した時までやっていた。運悪くデモで市内の道路が封鎖されたため空港からの車を途中で降ろされ、スーツケースを引きずりホテルまで2km歩いたが、スト明け初日となる翌日、通常運行に戻ったTGVの乗客となることができた。不便極まりない体験だったが、無人運転の地下鉄は1~2分おきに来るし、交通アプリでは運行状況が確認できるし、ウーバーを呼べば車はすぐにやってくる。だから困りはしたが何とかなった。

 いわゆるナイトタイムエコノミー活性化のために、24時間運行のニューヨークと比較して東京の鉄道の終夜運転をという声はよく聞くが、パリの地下鉄とて終夜運転はしておらず、金曜・土曜の終電が少し遅いだけだ。鉄道どころか、日本のように終日営業年中無休のコンビニはないし、代わりとなるスーパーも夜はそこそこの時間で閉まる。レストランのディナータイムは早くて19時から、しかも食べ始めたら終わるまで2時間以上はかかる。一方でリドやムーランルージュなどのショーはたいていラストは日付をまたぎ、夜通し飲めるカフェやバーはたくさんある。そもそもそうして夜を過ごす観光客が、慣れない異国の地下鉄の終電の時間を気にすることなどどのくらいあるのだろう。

 日本でコンビニやファミレスの終夜営業の見直しが進み始めた。ただこれはそれぞれの業態における人手不足の解消が目的だ。サービス業が人件費をコストとして見続ける限り、価値を上げお代をいただき担い手の所得を上げるというシナリオからは遠い。コンビニはもはや日本には欠かせないが、人口増加のアジアはともかく、欧米でこれほど多い街を見かけることはない。日本の地方都市の駅前は今ではチェーンの居酒屋やファミレスが目立つ。われわれの日常を便利にし豊かにする、それはとても重要だが、それが非日常を求めて旅する人々のウキウキ、ワクワクを奪うことになってはいないだろうか。

 Too much to convenience. 今まで日本は便利にするために人と労力を使いすぎた。その人材を夜に人を楽しませるエンターテインメントや、楽しんだ人々を深夜安全に安心してホテルへ送り届けるモビリティーの仕事などに仕向けるべきだ。もちろん、それなりの対価をいただいて、それなりの高い給料を払って。働き方だけ改革してもダメ。重要なのは日本の将来を担う、高度なサービス業への労働力のシフトだと思うのだが。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役営業本部長 チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。

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