キーワードで占う2020年 東京五輪からヤフー×LINE連合まで

2020.01.20 00:00

キーワードをひも解くと2020年のビジネスが見えてくる…
(C)iStock.com/Koca

旅行市場は成長曲線を描く一方で、事業者は従来のビジネスモデルが崩壊し、新たな成長の糸口を探る重要な局面にさしかかっている。20年はいよいよ開催される東京五輪で何をレガシーとして残すのか。新たな観光立国推進基本計画に向けた議論の軸とは。20年のキーワードから識者・記者が展望する。

<Keyword>東京五輪のレガシー LIVEへの熱量を吸収せよ

 日本で昨年開催されたラグビー・ワールドカップ(W杯)には多くの国民が熱狂した。在宅率の高い週末夜を中心に試合が設定されたことも手伝い、テレビ中継にくぎ付けとなった人は少なくない。準決勝の南アフリカ戦は実に5900万人が視聴したと推計される。視聴理由のつまびらかな分析は他へ譲り、視聴者が「LIVE」の空間へ没入したことに着目したい。

 お笑い番組やドキュメンタリーでも、生放送の場合はそれを強調するLIVEのテロップが挿入される。また、ネットメディアによる記者会見の完全生配信は社会のニーズを捉えつつあると聞く。コンテンツ自体が持つ魅力に加え、今この時に限り、追体験を可能とする価値の付加が有効だと情報発信者が判断した証左だ。東京五輪の競技会場での観戦が叶わない人はW杯同様、多くがテレビでLIVEを体感するに違いない。

 コト消費を価値として市場へ提供するツーリズムとして、LIVEをさまざまなコミュニケーションに投入することで存在価値を高めたい。新世代通信テクノロジー元年である。季節の話題に代表されるポジティブな情報に限らず、災害被災地の復興状況や政治的対立の相手国都市のショッピングストリート等、さまざまなLIVEへの没入ニーズを通じた仕掛けで消費者の能動的なアクションを促せないか。

 東京五輪で巻き起こる熱量を社会的レガシーとして、次の何かへ誘う役割を率先することが、感動を創出し人流を生み出す主体に求められる。新たな商材は必ずしも必要ではない。消費者の共感を生み出せるLIVEを価値として、巧みに伝達できる発信力が必要だ。

神田達哉●サービス連合情報総研業務執行理事。同志社大学卒業後、旅行会社で法人営業や企画・販売促進業務に従事。企業内労組専従役員を経て、ツーリズム関連産業別労組の役員に選出。18年1月、労組を母体とする調査研究組織を一般社団法人として立ち上げた。

<Keyword>5Gの新サービス スキームプロバイダーに商機

 5Gの普及は国を挙げたプロジェクトだ。超高速、超低遅延、多数同時接続性など、その通信パフォーマンスはこれまでの4Gとは比較にならないほど高い。しかし、それゆえインフラ整備や端末の普及には年単位の時間がかかる。また、普通の生活者にとっては現在の4GとWi-Fiですでに十分であり、これまでのように利用ニーズが普及を促進することは望めない。

 5Gを旅行業界が生かせるかどうかは、従来の延長的なコンテンツの充実ではなく、旅行体験を拡張するスキームをつくれるかどうかにかかっている。実際、19年に各方面で行われた観光系の5G実証実験は技術的な課題をクリアしただけであって、はたから見れば「へぇ、面白いね」止まりであり、旅行消費につながるものではない。

 商用サービス元年においてわれわれが行うべきことは、自らが積極的に5Gの特性を踏まえた活用方法を企画し、通信キャリア、デスティネーション、他業界と組んだトライアルを数多くこなすことである。別の言い方をすれば、5Gのメリットを受け身で待っていても何も起こらない。スキームづくりにおいては、すでに商用サービスが開始されている他国のIT企業と組むことも検討すべきだ。

 マネタイズの視点でいえば、5Gの活用による旅行消費増だけではなく、観光系の5Gスキームプロバイダーとなることを目指したい。それによって、国内のみならず、今後各国で商用サービスが始まった際に、そのノウハウを使って新たなキャッシュポイントをつくることができる。5Gを新たな商材と位置付けた発想で取り組もう。

黒須靖史●ステージアップ代表取締役。中小企業診断士。好奇心旺盛で旅好きな経営コンサルタント。さまざまな業種業態の経営支援に携わり、現場中心のアプローチに定評がある。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年1月20日号で】