2020年1月6日 12:00 AM
さまざまなシーンで存在感を高めるAI(人工知能)。20年代に入ってAIは活躍の場を一段と広げそうだ。一方で破壊的な技術革新には警鐘も鳴らされる。果たしてAIはツーリズムの可能性を広げるのか、それともツーリズムがAIに支配されるのか。
AI技術はすでにツーリズムに関連するさまざまなシーンにおいて存在感を高めている。ダイナミックプライシングや自動翻訳、チャットボット、自動運転およびMaaS、映像解析など、ツーリズムに関する新たなキーワードの多くは、AIの進化が前提となっているものだ。
すでに実用化され最も活用されているといわれるのが航空券やホテル料金のダイナミックプライシングにおいてだろう。AIが膨大な過去データから空席(空室)を予測し、最適な運賃(客室料金)を算出する。しかも日々刻々と変わる状況を即座に勘案して時価を算出し、収益最大化を助ける。AIでなくてはできない芸当だ。日本航空と全日空は国内パッケージツアー用運賃にダイナミックプライスを導入する方針を打ち出し、20年度上期商品からは現行IITに替えてダイナミックプライシングに基づく新運賃を設定する。
ホテル業界ではインターコンチネンタルホテルズグループがダイナミックプライシングとロイヤリティープログラムを連動させて顧客の囲い込みを図る仕組みを開発済みだ。
訪日外国人接客の現場では、AIが支える多言語案内や翻訳機が活躍する。パナソニックの「メガホンヤク」は、メガホンに向かって話した日本語の定型文を音声認識し、指定する言語(英語、中国語、韓国語)に翻訳して再生する多言語音声翻訳機。成田空港が災害時・緊急時の情報発信手段として4年前から導入。メガホンヤクのソフトウェアを応用した多言語音声翻訳放送システムのJR西日本各駅への導入も18年から始まっている。
東京都内ではクラウド型の多言語音声翻訳システムを活用しタクシー内で運転手と外国人の会話を自動翻訳する実証実験も始まっている。
自動運転実用化も始まりつつあり、東京五輪では選手村内の大会関係者や選手の移動に自動運転車が使われる予定で、トヨタはすでに新モビリティサービス「e-Palette」を発表している。
旅行商品の企画や提案においてもAI活用は進展。旅行会社が保有する旅行履歴や嗜好性、購買動向などのデータから変更・取り消しといった情報を含む膨大なデータをAIで分析し、顧客の嗜好に沿った旅先や行程を提案する試みも始まっている。データ分析と活用の専門企業INSIGHT LABの分析プラットフォーム「Qlik View」を導入しデータ活用を本格化しているのがJTB。18年にWeb販売部にデータサイエンスセントラル(DSC)を立ち上げ、データ分析を強化することでマーケットイン型の旅行提案力を高める。
また、世界的な旅行データ分析に基づき旅行者の購買および動向の分析を行うADARAが日本市場での本格展開を開始し、日本政府観光局(JNTO)やせとうちDMOなどがすでに導入する。
さらにはチャットボットを顧客サービスに活用するツーリズム関連企業が急速に増えている。アマデウスの未来予測レポート「Amadeus Future of X」でアマデウス・アジアパシフィックのナディア・ヤヤウィ代表は「人工知能はすでに旅行業に影響を及ぼし恩恵をもたらしている。ますます多くのTMCや航空会社がショッピングや情報請求、クレーム処理をサポートするチャットボットを使って顧客にサービスを提供している。私の考えている次の大きなチャットボットといえば、出張中や出先で出張規定に関する質問に答えてくれるチャットボットだ」と述べている。
出入国手続きや空港のセキュリティー対策ではAIによる顔認証技術が使われる。日本ではICチップ内蔵パスポートに格納されるパスポート写真のデータと、自動化ゲートでカメラ撮影される写真データを顔認証技術で照合し出入国審査を行っており、同様のシステムは各国で採用される。米国では顔認識技術を活用し搭乗券なしで搭乗手続きを行うアメリカン航空のような事例も出ている。
AIを活用した技術の中でも顔認証技術の進歩は目覚ましく、さまざまな場面で実用化が進む。すでに17年には日本観光振興協会が主催する観光予報プラットフォーム活用コンテストで大賞を受賞した飲食店・ゑびや大食堂(伊勢市)の事例でもAIの顔認証技術が重要な役割を果たしている。ゑびや大食堂が実現したのは、的中率9割という高精度で翌日の来店客数と注文数を予測するシステム。
顔認証技術を取り入れる前からすでにAI利用の来店客予測は行っていたが、顔認証技術を加えることで精度が大きく向上した。具体的には店内カメラで顧客の性別・年齢といった属性や感情までを解析するシステムを導入し、対象顧客が初来店かどうかや、来店時の感情までも読み取りデータ化できるようになった。すでに収集していた時間別の来店客数や滞在時間、過去の売り上げデータ、天気予報、近隣の宿泊者数といった多数のデータと顔認証技術で得た情報を組み合わせることで、AIによる予測はより高精度化。7年間で売上高は約4.4倍、客単価は約3倍に拡大した。
【続きは週刊トラベルジャーナル20年1月6・13日号で】[1]
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