Travel Journal Online

OTAならぬATAが生まれても

2020年1月5日 12:00 AM

 2020年はどんな年になるのだろう。梅雨期の集中豪雨や、夏以降の大型台風への心配は膨らむが、今度の夏はいよいよオリンピックである。心配は多々あるが祈るしかない。海外旅行を主とする旅行会社にとって、夏の繁忙期に五輪観戦で海外に出るお客さまが減少しそうだから商売上あんばいが悪い。年間で平均すれば、そんなに大きな影響はないだろうと半分開き直って観戦する方に回って楽しもうと思う。

 もう1つ、20年の大きなエポックは春に5Gサービスが開始されることだろう。最初は4Gと5Gが混在し、今までより動画が見やすくなる程度しか実感できないかもしれない。「高速・大容量」「低遅延」「多数端末との接続」が特徴というが何がどう変わるのかわからない。

 しかし、内閣府が描くSociety 5.0によれば、今までは自分でデータベースにアクセスして情報を引き出し何が自分にとって有益な情報かを自分で判断していたが、IoTであらゆるヒトとモノがつながれば、ビックデータを高速でAIが分析し最適な情報だけ示してくれるようになるという。そんな世界を国は目指しているらしい。

 もちろん、そこまで行くには試行錯誤が繰り返されるに違いない。とにかく5Gスタートありきで、始まったらきっと新しいビジネスモデルが次々に生まれると期待されている。一例として自動車会社が自動車だけ売る時代は終わり、自動運転に付随したさまざまなサービスを売る時代が来て、そのサービスの仕組みをめぐって新しいビジネスモデルが生まれるといわれている。

 果たして旅行業への影響はどうか。自動運転のサービスには旅行も入ってくるだろう。しかし、旅行会社が介在するとは思えない。サプライヤーと直接つながるに違いない。インターネットによって、航空券、宿泊券、列車券などの素材流通はEコマースにこの20年ほどで切り替わったが、今度はAIによって旅の情報収集やコンサルティング、手配、決済までもが代替可能といわれる。AIは忘れず漏らさず変化に随時対応し更新される。どうも人間は分が悪い。

 しかし、インターネット同様、AIによって何もかも代替されるような役割しか旅行会社が果たせないならそうなるしかない。まさにOTAが生まれたようにAI TRAVEL AGENT(ATA)が生まれても不思議はない。人間の代わりにAIがすべて対応してくれる。「週末、南のリゾートに行きたい」とつぶやけば、適当な旅をAIが組んで手配も決済もすべて行ってくれる。そんなイメージが浮かぶ。そうなったときに自社が残れるか、自問自答する必要がある。

 しかし、すべてがそうなるわけはない。AIを補助的に利用して、人間がコンサルし、ツアーも作る。そんな世界も必ず残る。そういう仕事をしなくてはいけない。「Aさんに相談したお陰でいい旅ができた」「B社のツアーに参加して素晴らしい旅ができた」。そういわしめるだけの仕事をしなくてはいけない。旅がバーチャルにならない限り、旅そのものがAIに置き換わることはない。移動し食べて観光し体験する。即ち旅はなくならない。だからこそ旅の中身に関わっていけば旅行会社の役割は必ずある。

 JATA『数字が語る旅行業2019』によれば、第1種は688社。1997年は949社だったから250社以上減った。一方、2種、3種は200社ほど増えている。かつて旅行産業は10兆円産業といわれたが、2018年の取扱額は5.7兆円で半減に近い。この産業は明らかに縮小し小規模化している。こうなるとパイの取り合いになりはしないか心配だ。何とか海外渡航者数2000万人超えを力に変えたいものだ。

原優二●風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。