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米国でインディペンデント・コントラクターに求められる新要件

2019年12月9日 12:00 AM

 米国旅行業協会(ASTA)は9月に、カリフォルニア州議会でのインディペンデント・コントラクター(IC)論議に一応の決着を見たと発表した。州政府は企業所属の従業員とプロジェクト単位で業務を請け負う独立請負人ICの身分区分をより厳しく規定し、ICの雇用を制限する意図で、州議会法案5号の制定を目指していた。経営者にとってICは社会保障費、メディケア医療保険、失業保険の負担がなく、経費を節減する利点があり、一方ICは業務を自由裁量で行うことができるが、自営業税支払い義務がある。

 旅行業ICのほとんどは自宅を拠点とする自営業であり、ここ十数年、伝統的リテール店舗の減少に代わって急速に増加した。ASTA会員中、在宅エージェントは03年7%であったが、16年には44%を占めている。

 カリフォルニア州の旅行業では過去数十年、旅行会社とIC双方にメリットのあるこの方式で営業の多くをICに依存しており、法律の成立は業界の死活問題になると危機意識が高まった。ASTAを中心に業界は、法律の適用から旅行業を除外してもらうキャンペーンをまれに見る熱心さで続けてきた。会員による議員への陳情、キャンペーンなど草の根運動ともいえる活動の成果か、9月に知事が旅行業除外を含む法案にサインした。

 新法下でICに求められる条件は、業務を受託する旅行会社と別の営業拠点を有すること(自宅でもいい)。また、複数の旅行会社の業務を行うこと、つまり1社専属の場合はICとは認められない。ASTAは今後他の州で同様な動きに対応するとしている。問題の背景には、業界でのICの存在がここ10年で劇的に拡大したことがある。

 リテールエージェントの養成を行うトラベル・インスティテュートが全米2000のエージェントを対象に行った17年のオンライン調査で、ICは08年にエージェント全体の29%であったが、17年に62%となった。ICの多くは週20時間以下の就業、3年以下の業務経験、他業種からの参入が多く、その92%が在宅エージェントである。ICを目指す理由は、在宅勤務、自由裁量の労働、ボスである満足感、収入などである。

 労働問題の専門家によればIC化は全国的傾向で、理由は企業での雇用のダイナミズムの停滞やシェアリングエコノミーの影響との説もある。さらに在宅エージェントとICの増大を支えたのは、こうした未経験者に旅行実務を教育し、仕入れ・予約、マーケティングから経理、研修、有利な手数料の獲得などを全面的にサポートするホストエージェンシーの存在である。

 カリフォルニアの事例で明らかになったのは、米国の巨大な旅行需要に応える旅行業の最前線の顧客対応が社員でない個人事業主ICに大きく依存していることだ。背後にはICを支えるホストエージェンシーが存在し、同時に彼らもエージェントの集合体ネットワークである大手コンソーシアムにメンバーとして加盟している。

 この重層構造が米国の旅行流通の実態であると理解するが、率直な印象としては実務経験の少ないICが個人化・個性化の進む現代の旅行者の要請にどれだけ応えられるのか疑問を抱くのだが。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。