2019年12月9日 12:00 AM
いまや社会問題化しているオーバーツーリズム。その日本での最前線といえば、京都である。ゲストの8割が外国人という宿屋を京都で営む身としても人ごとではない……というか、紅葉シーズン中のいま、まさに京都、人混みでえらいことになっとります。
人口150万人の小さな町に年間5000万人の観光客がやって来たらどうなるのか。どんな問題が起きて、利益、あるいは損が発生するのか――本書は、世界的な観光都市・京都の現状と問題点を、京都に暮らす観光社会学者の著者が現場取材や関係者インタビューを交えて読み解いた一冊だ。
舞妓や芸妓への無遠慮な接触、乱立する民泊施設、交通機関の慢性的な混雑。さまざまな問題に対し京都も手をこまねいていたわけではない……というか、関東出身の私から見ると、京都は「京都を邪魔するもの」に対して行政も民間も寺社仏閣もおおむね手厳しいし、東京よりよほど動きが早い。ただ、観光客の増加が激しすぎて現状に追いついていないというふうに見える。
本書では、あちこちの現場でいま起きていることを追いながら、日本での「観光客嫌い」の傾向、さらに、そもそもなぜ京都がこんなに人気なのか、京都の「京都らしさ」はいかにして育まれていったのか、というところまで分析が及び興味深い。この「京都らしさ」を保っていけるかが京都市が最近力を入れまくっているSDGs(持続可能な開発目標)の肝なのだろう。
ちなみに本書にはお宿バブル最前線にいる町家旅館の取り組みとして、不肖ワタクシもインタビューにお答えしております。って最後は手前味噌でスイマセンが、私の話はともかくとして、わかりやすく、しかも現場をしっかり見たうえでこの問題を捉えた好著。インバウンド担当の皆さまにぜひおすすめ。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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