“鎖国”して独自性を獲得する

2019.12.02 00:00

 男性は海外旅行の費用を自分で払う割合が8割に対して、女性は5割を切る。本当か?驚きと疑問がわいた。女性は同行者(配偶者・パートナー・恋人など)が負担する割合が31.5%、男性はわずか7.3%。確かに社会に出れば収入の男女格差は大きいし、主婦ならば夫に海外旅行の費用を出してもらっているということになるのだろう。海外旅行の費用負担の実態は、日本の実社会を投影している。

 数字はJTB総合研究所が毎年発表しているレポート『海外旅行の現状2019』からの引用である。周知の通り、18年の海外渡航者数は1895万人で過去最高。レポートでは18年の出国率は20~24歳で男性18.4%(56万1928人)、女性はなんと40.5%(117万1455人)。25~29歳でも男性22.1%(67万346人)、女性は33.6%(97万7485人)と、全体平均15.3%に比べてかなりの高率で、出国者数では全体の17.8%を20~29歳の若者で占めることになる。

 特に20~24歳の女性40.5%には驚く。17年も35.2%とダントツに高かったが5ポイント以上伸びた。「若者は海外に行かない」はやはり間違い。確かに行く人と行かない人で二極化しているが、それは若者に限ったことでなく、全般的にそうだ、とレポートでも指摘している。

 旅行先はヨーロッパが大幅ダウン。東アジア、東南アジアへ大きくシフトする傾向が昨年から続く。特に20~29歳の若者はその傾向が著しく、いくら数が伸びても旅行会社の利益にはつながりにくい。しかし良いことではないか。K-POPも韓国フードも一時的ブームというより日常になりつつある。対立する国家の枠組みなど無関係に、若者は日韓が溶け合うかのように新しい文化を生み出している。

 レポートでは17年同様、年配者のほうがネットですべて予約・購入する傾向が強い一方、若年女性が店舗を多数利用。全体として、旅行会社離れがますます進んでいるとしている。毎年目を通すと海外旅行のトレンドがわかる。それが当社のお客さまのトレンドに直接リンクするわけではないが知っておくべきと考えている。

 「SNSですぐに横槍(ツッコミ)が入って、いつも“あげ足”を取られてしまう。いつも聞こえてくるのは『空気を読めよ』の大合唱だ。おかげで、あらゆる表現の『角』が取れてしまって、せっかくの個性が殺され品行方正で無味無臭のモノばかりが残るようになっちゃった。正論以外は許されず、ずいぶん窮屈だ。多様性を生むハズだったインターネットは、逆に『全員、右にならえ』の世界を作り出してしまって『ボケ(異端)』は今日も殺されている」(『新・魔法のコンパス』西野亮廣著、角川文庫より)

 3日ほど前に本屋でふと目に留まってこの本を読んでみた。キングコング西野といったほうがお分かりの人も多かろう。お笑い芸人でありながら絵本を書き、日本一のオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」の運営者でもある。

 江戸の文化は、浮世絵にしても着物の色の合わせ方にしても圧倒的にオリジナルで、ボケ(なんじゃソレ?)で、結果、世界に通用している。江戸時代の文化が成熟する前に欧米の文化(ツッコミ)が入っていたら、こうはならなかった、と西野氏はいう。

 なるほど。旅行会社離れがどんなに進んでも、圧倒的な個性を個人と会社の両方で示し、自分の世界にこだわり、とことん角張ってボケ(異端)であり続ければいい。そのためには鎖国して、当社の理念を支持してくれるリピーター、いや、ファンをいかに増やすかが鍵だということになる。今のままでは突き抜けられない。

原優二●風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。

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