トーマスクック倒産が残した消費者保護の課題

2019.12.02 00:00

 英国民間航空局(CAA)が管理するATOLの弁済基金は大型倒産があれば当然大きく減少する。ATOLは、ATOLライセンスを所持するツアーオペレーター全体の顧客を保護する制度で、その原資には倒産会社のボンドもあるが、基本はパッケージ購入者が1人2.5ポンド負担する。

 18年3月決算期の繰入額は約6300万ポンド。パッケージの定義拡大で対象者は前年より増加した(2522万人)。CAAは今回のトーマスクック倒産による被害者の本国送還と代金払い戻しの費用を4.8億ポンドと想定するが、専門家は最終的にそれを超えるという。17年にモナーク航空の大型倒産では11万人に1600万ポンドを支出したが、昨年3月には1.7億ポンドの資金余剰があった。基金は負担額が1.5億ポンド以上を超える倒産事故に備え4億ポンドの保険をかけている。しかし今回、保険会社が全額支払いに応じるか疑わしく、今後は同じ条件の保険契約を続けられないかもしれない。これから倒産が続けば制度も安全でない。

 トーマスクックのリテール網は約500店舗あって、自社だけでなく他オペレーターの商品も取り扱った。リテーラーは顧客から早期に代金全額の支払いを受け、それより遅れて商品をホールセールのオペレーターに送金する。同社は8~9月に翌年の4~5月(9カ月後)に出発する商品について全額支払いの顧客に5%の割引販売をしていた。

 トーマスクックはオペレーターと代金送金を出発の13週前とする代理店契約をしていた。一般に健全経営の旅行会社は、出発の15週前に代金全額を収受するのが普通だ。すなわち同社のリテールは、より早く顧客から全額代金を収受してツアーオペレーターとの決済を2週間遅らせて、5%割引のインセンティブ販売をしていた。

 英国の販売エージェントの手数料は15~16%とされる。英国旅行業協会(ABTA)は、第3者オペレーターが定める期限より早くエージェントが顧客に代金全額支払いを求めることを規制する検討をしている。それは代理店契約違反だが、しばしば無視されてきた。あるオペレーターがABTA、CAA、トーマスクックに苦情を申し立てたが、その翌日同社店舗がそのオペレーターの商品を撤去した例があるらしい。トラベルウイークリー誌によると、サプライヤーへの影響は予想外に広がっており、さらなる倒産が予想される。

 航空業界はCAAによるトーマスクック顧客の帰国業務が円滑に行われたことを認めているが、CAAによるフライト(多数の会社のチャーター便)運営は非効率と考え、航空会社の破綻を処理する規則の改正を呼びかけた。トーマスクックのフライトは航空会社というよりツアーオペレーターの一部ともいえるので、企業倒産における消費者保護制度でカバーされる帰国業務について一般航空会社を同様に扱うのは不適切と考えている。

 特に英国で運航する外国航空会社の大部分は、英国政府が帰国便を組織するための介入に反対する。米国キャリアにはチャプター11(連邦倒産法11章)があり、倒産後も継続して運航することができるので消費者のリスクは全くない。一方、英国運輸省は倒産会社の航空便を続けて運航させる方法、その支払い方法について検討中という。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。