2019年11月25日 8:00 AM
「お客さま」への対応方法は、国によりまたは業界によりかなり異なる。商品・サービスを購入いただいているのがお客さまである以上、どういう姿勢・態度で顧客と接するかは時に会社の命運を左右する。日本の顧客対応は世界的にみてどういう状況にあるのか、グローバル目線で論じてみたい。
日本の製造業にはお客さま相談室というものがあり、そこにはクレーム対応のベテランが揃っている。内容の緊急性と重要度を判断、社内のどの部署に対処を依頼すべき、あるいは対外的な対応の要不要まで瞬時に判断する迅速かつ賢明な対応が求められる。日本のサービス業では、製造物責任がない分サービスそのものにフォーカスできるはずなので、比較的運用しやすい体制ではないか。
グローバル企業と比べ気になるのが、日本企業のクレーム対応の姿勢だ。一言でいうと、ことの重要性への判断力があるようでまったくないケースが散見される。つまり些細なことで大騒ぎして、本来集中すべき問題の本質の洗い出しより目の前の火消しに没頭する傾向が強い。
欧米では自己責任という概念が教育を通じて個々人に染みついており、たとえバスが時刻表通り来なくても、特急電車が1本中抜きされても、スーパーが閉店10分前にしまっても(これらはほぼ日常茶飯事)、誰も文句をいわず、それを前提に社会・経済が動いている。約束時間に遅れる人が多いのもこれらの背景を前提にしているからで、ラテン系の国でだいたい30~ 40分、ゲルマン系の国では10分前後まではアポイント時刻に遅れて到着。これはまったく遅刻とはならず、事前の連絡もほぼ不要だ。1分遅れて形だけのお詫びアナウンスをする日本の鉄道系サービス対応とはずいぶん違う。
では、カスタマーサポートとはいったい何のため、誰のためにあるのか。それは本来起こってはならない重大事態の発生時に、偶然必然のいかんにかかわらず、①すばやく最大の問題を解決し、②問題の本質をあぶり出す。これらの措置により、③より良い商品・サービスを将来の顧客に提供できるよう企業としての誠意提示と自社事業発展をかけ、マーケット全体とコミュニケーションをする、そのプロセスそのものがカスタマーサポートなのではないだろうか。
マーケティングの4つの基本機能、すなわち商品、価格、販路、販促(4P)のほかに、実はもっとも重要にもかかわらず注目されることが少ないもの、それが顧客との約束(Promise)である。これは顧客対応の積み重ねから生まれる信頼のことであり、とりもなおさずブランドとは、マークやロゴではなく、この約束のことなのだと私は考えている。
どんなに真摯に事業遂行していても問題は起こる。ならば些細なことへの難癖対応でなく、本来その会社が顧客から期待されている重要な機能やサービス面で、それを損ないかねない、つまり信頼されていたこと=約束を破ったとみなされかねない重大な危機をいかに防ぎ、万が一発生した場合にも、どう正直・迅速に対処するか、そこが勝負の分かれ目であり、うまく対処できればピンチもチャンスになる。
最近、仕事柄、美術館や商業施設とのやりとりが多いが、特に日本の美術館はお客さまからの些細なクレームに過剰反応する傾向がある。小事に気を取られすぎ、大事で大きなミスをしてしまう愚は避けたいものだ。幸い管轄の文化庁は非常にオープンなので、これらの実態を都度報告し、国全体で本来のマーケティングが実現できるよう少しでもお役に立てればと思う。
荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。
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