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新IIT導入と地域の危機感 国内旅行の2020年問題

2019年11月25日 12:00 AM

地域の空洞化への危機感が生まれている
(C)iStock.com/joxxxxjo

20年4月から国内線に価格変動型の新個人型包括旅行運賃(新IIT)が導入されることになり、地方の観光地が危機感を強めている。店頭型商品の存在感が低下し、オンラインでのダイナミックパッケージの比重が増大すれば、幹線に販売が集中しかねないからだ。地域間格差の拡大に懸念が高まっている。

 航空会社は、空席状況などに連動して価格を変動させる価格変動型運賃(ダイナミックプライス)を積極的に推し進めており、座席の効果的な販売による収益向上を目指している。公示運賃はすでにダイナミックプライスに移行しており、FITに関しては変動価格が市場に定着している。さらに今年に入り、全日空(NH)と日本航空(JL)が国内募集型企画旅行に公示運賃をベースとした価格変動型の新IITを適用する方針を表明し、募集型企画旅行にもその波が押し寄せてきた。

 旅行会社の募集型企画旅行に適用されるIITには、半期ごとの仕入れ交渉などであらかじめ料金を設定する固定価格が適用され続けてきた。しかし、航空会社は最近のパッケージツアーの競争力低下が著しいと分析。早期に需要を取り込むにはIITは公示運賃より割高で競争力に欠け、価格競争力を発揮できるタイミングでは座席が確保できないのが実態で、いわばダイナミックパッケージ化こそがこうした課題の解決策になりうると指摘する。

 こうした見方には旅行会社からの異論もある。需要が比較的順調な時期はともかく、需要が冷え込んだ場合には、ダイナミックパッケージでは需要喚起が難しいと考えるからだ。しかし航空会社は、IIT頼みの旅行会社はいずれ顧客も商材も失うだけであり、新IIT導入を機に旅行会社が改革を進めるべきだとも主張する。

 すでに既定路線となった新IITの導入は、旅行会社にとっては変革を促す促進剤というより劇薬に近く、対応は簡単ではない。価格が変動するため、パッケージツアーのパンフレットに明確な旅行代金を掲載することは事実上不可能になる。これまで長きにわたってパッケージツアー販売の柱だった紙のパンフレットがなくなり、完全にネット販売の時代を迎えると見る旅行会社が大半だ。大きく幅を持った旅行代金しか事前に明示できない状況では、店頭販売に際し消費者への十分な説明は難しい。接客担当者は手足を縛られたまま販売をしなければならない。

 商品を販売できる環境整備も必要だ。新IITは予約から3日以内の発券が求められ、NHは搭乗355日前から、JLも330日前から取消手数料を徴収する方針で、旅行開始の20日前までは旅行者から取消料を収受できない標準旅行業約款では対応できない。

 その結果として、旅行会社の負担が事業継続を脅かしかねないレベルになる危険性があるため、JATA(日本旅行業協会)と全国旅行業協会(ANTA)は個別認可約款「国内募集型IIT約款」で取消料を規定できる枠組みづくりに取り組んできた。観光庁と協議しつつ、9月には同約款を取りまとめ、航空会社の定める取消料を実費で請求し、20日目以降では、標準旅行業約款で規定する上限額と比べ高い方を請求できるようにした。

 また新IITの導入に合わせて、これまで募集広告として作られていたパンフレットが担ってきた機能を、「この書面では旅行契約の申し込みを受け付けない」旨を明記した「告知広告」と、問い合わせがあった旅行者に送付して契約条件等を明示する取引条件説明書に分けて交付する方法を指示した。さらに告知広告には旅行代金の目安額を掲載するものとし、目安額の基本的な考え方として、最低額は航空会社から提示された新IITの下限額に地上費の一番安価な額と必要経費を加算した額とし、最高額は新IITの上限額に地上費の一番高価な額と必要経費を加算した額を表示することを指示している。

地域格差への懸念が増大

 国内募集型IIT約款を策定し、告知広告と取引条件説明書を分けたり、新たに旅行代金の目安額を設けたりするのは、店頭販売の国内パッケージツアーの生き残りをかけた対応策だ。それでもオンライン販売のさらなる拡大は避けられそうになく、パンフレットによる旅行商品販売の拠点として機能してきた旅行店舗の存在感低下も避けられないと考えられる。この状況に危機感を強めるのが、全国レベルの人気観光地や国内航空路線の幹線都市を除く全国の地域だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年11月25日号で】[1]

Endnotes:
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