ミャンマー次の一手、ビザ免除延長と世界遺産バガン

2019.11.11 00:00

アーナンダ寺院はバガン美術の傑作

ミャンマーへの観光ビザ免除措置が1年延長された。19年に入って日本人観光客数は20%以上の伸びを示し、7月にはバガン遺跡の世界遺産登録が決まるなど、旅先としてのミャンマーの魅力と利便性は増しているようだ。

 9割の国民が仏教徒というミャンマーでは、仏教遺跡をはじめ、寺院やパゴダ(仏塔)、僧院は観光要素の大きな部分を占める。世界遺産に登録されたバガン遺跡はミャンマー中部の平原に位置し、カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボロブドゥールと並ぶ世界3大仏教遺跡のひとつに数えられる。バガン王朝時代(11~13世紀)に建立された寺院や仏塔は2万基以上に達したという。現在においても、考古学的に貴重とされるものだけで大小約3000基以上が残されている。

 必見の寺院はいくつかあり、中でもバガン美術の傑作とされる白亜のアーナンダ寺院や、黄金に輝く仏塔で知られるシュエジーゴン・パゴダは有名だ。ほかにも、たとえば、バガン最大規模を誇る未完のダマヤンジー寺院は階段状の重厚な外観が印象的。王位をめぐり、実の父王と兄を暗殺したナラトゥー王がその贖罪から建立した寺院で、地元では伝説とともに幽霊が出るとまことしやかに噂されている。

 バガン随一の高さ61mを誇るダビニュ寺院では、参道と周囲で供え物の生花や神聖な水に浸した瓶詰のスイセン、地元の人々が好むスナック、砂絵、籐を編んだ籠や伝統衣装のロンジー(腰布)などが売られている。はにかむ現地の人々と触れ合う時間も思い出深いものになるだろう。ハイライトは、朝日や夕日を浴びて黄金に輝く無数の仏塔を高さ60mのビューイング・タワーから360度一望することだ。

バガン・ビューイング・タワーからの壮大な眺め

旅慣れた女性向け要素も

 ミャンマー観光の玄関口は緑豊かなガーデン都市ヤンゴン。一番の観光地は、黄金に輝くシュエダゴン・パゴダである。観光客はその輝きに魅せられ、地元の人々はその信仰心と憩いを求め、そして徳を積むために清掃などの奉仕をする人々でいつもにぎわっている。

 ロンジーを着ている人を多く見かけるなど、大都市でも街角で異文化を感じられるのはヤンゴンの魅力だろう。庶民生活に触れるなら、環状線の列車(サーキュラー・トレイン)に乗ることをお勧めしたい。その名のとおり、約3時間かけて各駅停車で町を一周する。冷房のない窓全開の車内では、声を張り上げて乗客をかき分けつつ、果物類や菓子の袋詰め、噛みタバコを作りながら売り歩く。スープなしの麺類などを大きな盆ごと頭に乗せて売ったり、床に座り込んで売り子同士で物々交換を始めたりと、アジアの旅の醍醐味を実感するだろう。

 英国植民地時代に建てられたフォトジェニックなコロニアル建築は、市内ダウンタウンに多く残されている。こうした建築物を保全し、歴史やその背後にあるストーリーを伝えようと尽力しているのが、12年に設立されたNGO法人ヤンゴン・ヘリテージ・トラストである。ヘリテージガイドのスー・ライ・ウィンさんによると、この地区には100軒以上の歴史的建造物があり、その歴史や建造年などを記した青色のプレートを順次取り付けているという。

洗練された高級ホテルでのハイティーは女性が喜ぶ素材

 同じくダウンタウンにあるザ・ストランド・ヤンゴン(全スイート32室、1901年建造)は、ミャンマーのランドマーク的存在で、シンガポールにおけるラッフルズホテルのようなもの。白色と濃いグレーを基調とした上品なしつらえのリラックスした空間はとても居心地が良い。1階のカフェでは3段トレーのハイティーも楽しめるなど、英国植民地文化が今も残る。ここから徒歩10分足らずの雑貨店ラーディは、ドイツ人経営者によって地元企業と欧米のデザイナーによるコラボ商品をフェアトレードで売られている。雑貨のほか、ロンジーの生地で作ったワンピースなども販売。この夏、カフェスペースを増設したばかりだそう。市内には同じようなコンセプトの雑貨店も確実に増えてきている。

インレー湖と王都マンダレー

 ミャンマー中部のシャン高原に位置するインレー湖は、ヤンゴンから空路1時間超でアクセスできる。古くからインター族が水上集落で暮らし、漁業や浮畑での水耕栽培、湖に生育するハスの茎の部分から繊維を取って布を織るなどして生計を立てている。もちろん寺院も水上にある。

 拠点となる町は湖の北岸にあるニャウンシュエ。湖畔にはミャンマーの伝統と西洋のスタイルが融合した優雅な雰囲気のソフィテル・インレーレイク・ミャットミン(101室)、コテージタイプの隠れ家のようなインレー・プリンセスリゾート(36室)など、洗練されたホテルがいくつもある。基本的に観光客はボートで移動しつつ、ホテルへと向かい、観光する。水飛沫を上げて進むボートから望むのは、網を張った竹籠を使って器用に漁をする人々の姿や浮草の塊、時折視界に入る野鳥、遠望する低い山並みだ。インレー湖の一部地域は自然生物保護区にもなっている。

インレー湖は4人乗りボートで移動

 ミャンマーでは各地で市場が開かれるが、シャン州では5日ごとに市が立つ。タイミングが難しいが、取材中に訪れることができたのは、ヘーホー空港から車で約20分のニャウンシュエで開かれていたマーケット。地域に暮らす人々が青果や食料品、雑貨などを売り買いする民族色豊かな活気あふれる市場である。

 デザインを真似すればアクセサリーになるのではないかと思うほど、印象的な色使いのガラスモザイクが施された僧院がある。ニャウンシュエの北に位置する高床式の木造のシュエヤンピイ僧院と仏塔である。仏塔の回廊には無数のくぼみがあってそこに小さな仏像が納められている。壁にはカラフルな色のガラスモザイク装飾や繊細な細工が施されており、いくら見ても飽きることはない。

 ヤンゴンから空路1.5時間でアクセスできるかつての王都マンダレーも見どころが多い。ミャンマー最後のコンバウン王朝の都は、1辺が約3kmに及ぶ広大な旧王宮を中心に碁盤の目に道路が整備されている。聖地マンダレーヒルの麓にあるシュエナンドー僧院は、チーク材が多用され、精緻な彫刻が壁や柱、扉一面に施されるなど、建物全体が見事な芸術作品と呼ぶにふさわしい。

 欧米などの観光客も多く訪れるマハーガンダーヨン僧院には、ミャンマー各地から集まった約400人の修行僧が暮らす。10時過ぎ、赤茶色の僧衣を身に着けた若い僧が院内で托鉢に励む姿に見入ってしまうだろう。

 トリップアドバイザーでアジアのベストビーチ1位(2016年)に選ばれた、ベンガル湾に面したガパリビーチは今後注目スポットの1つ。ミャンマー観光連盟の奥田重彦日本代表は「ミャンマーはシニア向けというイメージだったが、女性やカップルなど若年層にも興味を持ってもらえる観光要素は多い」とし、新マーケット開拓に向けフォトコンテストやプランニングコンテストを予定するなど、知名度アップと観光客誘致に取り組む。

取材・文/梶垣由利子