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トーマスクック破綻の衝撃 伝統型旅行会社が消えてゆく

2019年10月21日 1:00 AM

英国の破綻劇から日本の旅行業界は何を教訓とするのか
(C)iStock.com/sezeryadigar

英国のトーマスクックが破産した。かねてからビジネスの不振が伝えられていたとはいえ、旅行業界の最古参である同社の経営破綻は世界に衝撃を与えた。トーマスクックのつまずきからは何を読み取るべきなのか。

 トーマスクックといえば旅行ビジネスにおける世界的なブランドで、パッケージツアーを最初に考案したのも同社だとされている。1841年創業で180年近い歴史を誇る“元祖旅行会社”ともいうべき老舗だ。主力事業は英国からのアウトバウンドで日本人旅行者には比較的縁の薄い企業だ。しかし、かつては海外旅行における重要アイテムだったトラベラーズチェックの代名詞的存在だったこともあり、一定年齢以上の日本人旅行者や業界人には馴染み深い名称でもある。

 また単なる老舗にとどまらず、巨大なグループを形成しており、傘下の4航空会社は合計約100機を運航して年間2000万人を運び、200軒・3万8000室を数える。傘下ホテルは120万人の顧客に年間920万泊を提供してきた。グループ総売り上げは円換算で1兆2000億円以上の95億8400万ポンド(18年度)に達する。そんなトーマスクック・グループが9月23日、ロンドンの裁判所に破産を申請し営業を停止。すでにアリックスパートナーズが清算人に指定されて手続きが進められている。

 トーマスクックの経営破綻は大きな衝撃を各方面に与えた。最大の衝撃を受けたのは、同社の主な顧客である英国人旅行者である。グループの航空会社の運航は止まり、購入済みのパッケージツアーで帰国までの旅程が全うできるかも不明。ホテルに予定通りに滞在できるのかも分からなかったからだ。

 英国政府は、このような不安を抱えた帰国困難者が地中海沿岸方面を中心に、遠くはマレーシアを含む50ロケーションに散らばっており、その数は15万人に及ぶものと想定。ただちに旅行者保護を目的とした補償制度、ATOL(Air Travel Organiser’s Licence)に基づき民間航空局(CAA)主導の帰国支援活動「マッターホルン作戦」に乗り出した。用意したのは数十機のチャーター機材による約1000フライト分。同作戦にはCAA中心に10の政府機関・部門から百数十人の職員が参加し、まさに国を挙げた救出劇となった。

 今回は格安航空会社モナーク航空が17年に破綻した際の同様の作戦規模を上回り、英国政府は「平時では過去最大の帰国作戦」(グラント・シャップス運輸大臣)と表現。モナーク航空破綻の際に要した5000万ポンドの約2倍の費用が必要と見積もり、今回は1億ポンド(約130億円)以上を投じることになると試算している。

リーマンショックに匹敵

 英国政府は10月初旬までの2週間で全員を帰国させる計画を立て、破綻2日後の25日にはキューバから同国滞在中だった全員を乗せて帰国フライトを運航。このキューバを含め、最初の2日間で130便以上を運航し3万人の帰国を完了。さらに作戦3日目も70便を運航して1万6500人を帰国させた。

 ホテルの確保にも動いている。トーマスクック経由で宿泊客を受け入れたホテルの中には、旅行会社が払うべき宿泊代金を、宿泊客に二重請求するような事例もあることが海外メディアで報道され状況が混乱した。このためCAAは約3000ホテルに対し、トーマスクックの支払い分を保証する旨のレターを送付するかもしくは電話で通知している。

 伝統的に英国人旅行者が多い方面、特に地中海沿岸、中東、北アフリカといった地域ではトーマスクックの破綻が現地の観光業を直撃するとの観測が報じられている。

 海外メディアも今回の出来事を大々的に報じており、スペインでは「リーマンショック並みの衝撃」と報じられ、トルコでは「数十万人の旅行者を失う」と悲観的な記事が掲載されている。また、エジプトの有力紙アルアハラムは同国大手のブルースカイ・グループだけでも予約の取り消しが2万5000件に及んでいると伝えている。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年10月21日号で】[1]

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル19年10月21日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2019/10/20/contents-6/