20代の海外旅行 出国率4割超の女子、牽引される男子

2019.09.23 01:00

増加基調にある20代の出国率だが
(C)iStock.com/danielvfung

20代前半女性の海外旅行が大幅な伸びを示している。18年に海外へ渡航した20~24歳女性は前年比15.5%増となり、出国率40.3%を記録した。若年女子の熱に隠れがちだが、20~24歳男性の出国率も18.3%と3年連続で上昇している点も見逃せない。盛り上がりを見せる若年層の海外旅行に合ったマーケティングを考える。

 「若者の~離れ」といった言葉をよく目にする。ところが、あらめて考えてみると少子高齢化によるボリュームの減少と、意欲の減退が混同されて語られていることが少なくないように思われる。海外旅行もその1つだ。確かに法務省の出入国管理統計年報で00年と18年の出国者数を比べると、20代男性は00年の153万人から123万人(30万人減)、20代女性は264万人から214万人(50万人減)と、それぞれ数としては減少した。

 しかしながら分子となる出国者数を出入国管理統計年報より、分母となる日本人人口を人口推計(総務省統計局)より引用して性別・5歳ごと年代別の出国率を算出した出国率はといえば、20代前半は男性が12.4%から18.4%、女性が27.4%から40.5%、20代後半は男性が20.1%から22.1%、女性が31.5%から33.6%と上昇している。特に20代前半での伸びが大きく、女性20~24歳は18年に初めての4割超えとなった。

 「~離れ」とは真逆の現象が生じているといえる。では、なぜこのように出国率が上昇したのだろうか。

出国率上昇の背景にあるもの

 大きな要因の1つは、LCCの浸透だ。12年に初めて国内線LCCが就航して以来、LCCはごく身近な存在となり、海外旅行にも広く利用されるようになった。「我が国のLCC旅客数の推移2018」(国土交通省航空局)によれば、07年に0.4%だった国際線LCCシェアは17年には21.7%まで上昇した。

 出入国管理統計で「住所地別出国日本人の年齢及び男女別」のデータを見てみると、17年から18年にかけて20代男女の増加率が高い都道府県は西日本に集中しており、特に佐賀など九州地域での増加が多かった。大阪をベースにしているピーチアビエーションの存在もあり、一般的にLCCの浸透率は西日本の方が高い傾向がある。

 また、佐賀県では、韓国、中国、台湾などから佐賀空港へLCCの積極的な誘致を行い、18年には6年連続で過去最高の利用者数を更新した。このような動きは、若い世代の海外旅行者数の伸びに寄与していると考えられる。

 出入国管理統計の滞在期間のデータでは、5日以内の短期旅行の伸びが最も高くなった。海外旅行先としても、00年に14.7%だった東南アジアは18年に21.9%、15.9%だった東アジアは28.0%と大きくシェアを伸ばしており、LCCを利用し、国内旅行に近い感覚で気軽に海外旅行へ出かける若い世代が増加していることがうかがえる。

 加えて、利用者の意識としても、JTB総合研究所が実施した調査の結果、18~29歳の男性では「LCCを利用することで、海外旅行をする回数が全体的に増えた」(20.9%)が全体より7ポイント以上高く、18~29歳の女性では、「LCC就航がきっかけで海外旅行をした」(13.6%)が全体を3.2ポイント上回った。

 LCCの登場により、手ごろな価格で海外旅行ができるようになった。今までも旅行をしていた人がより多くの旅行へ出かける既存市場の活性化だけでなく、今まで旅行をしていなかった層を初めての海外旅行へと誘うことで、潜在的な市場の開拓にもつながっているようだ。

 2つ目の要因として考えられるのは、SNSの存在だ。同じく当社の調査結果より、SNSを利用していて体験したこと、という問いの中で、「SNSの投稿を見て行ってみたいと思った場所に行った」と回答した割合は、全体では20.8%だったが、18~29歳の女性では53.4%と全体の2倍以上、18~29歳の男性でも26.2%と全体を上回った。また、「SNSで発信したいと思い、話題の場所に出かけた」は、全体では5.4%だが、18~29歳の女性は9.7%、男性は11.7%と、それぞれ1割前後となっている。特に若い世代にとってSNSは、旅行への意欲を喚起させるきっかけになるとともに、発信するために旅行するという新たな旅行の動機を生み出した。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年9月23日号で】

早野陽子●JTB総合研究所主任研究員。自動車メーカーでマーケティングリサーチ、コーポレートブランドの立ち上げ、長期商品戦略策定などを歴任し、04年から現職。社会心理学、多変量解析が専門。現在は海外旅行者動向や消費行動などを定量・定性の両方の視点から分析する。

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