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火山と星空脱却へ問われる企画力、ハワイ島でHTJがジャパン・サミット

2019年9月9日 1:00 AM

日本の旅行会社や現地の観光事業者が参加した

ハワイ島の観光はキラウエア火山噴火の傷が癒えないなか、追い討ちをかけるように7月にマウナケア山でデモ抗議活動が発生。火山と星空の2大キラーコンテンツに不安を残す状況となっている。ただ、こうした状況を転機と捉える向きもある。問われているのは企画力だ。

観光需要全快とはいかず

 ハワイ島の観光市場は多難な状況が続いている。昨年5月にキラウエア火山が噴火し、キラーコンテンツだったキラウエア国立公園に一時立ち入り規制が敷かれ、マグマが住宅や道路を飲み込むショッキングな映像が繰り返し報道されたことで、「噴火後数カ月は旅行会社のパッケージツアーの送客人数が半分以下に激減した」(ハワイ州観光局[HTJ])。この影響で18年の日本人来島者は前年比6.4%減の17万7479人となり、ハワイ全体でも1.0%減の157万1298人で3年ぶりのマイナス成長となった。

立ち入りが規制されている公園も多い

 現在は火山活動は収束したが、風評被害は完全に払拭されていない。また、国立公園内の主要施設であるジャガー博物館などは閉鎖しているうえ、「名物だったマグマが火口で活動する光景を見れなくなったことで魅力が半減した」(大手旅行会社の商品造成担当者)との声もある。今年1~6月の日本人のハワイ島訪問者は前年同期比25.8%減の6万1808人で需要回復に苦戦している状況だ。

 そうしたなか、HTJは7月17日からの5日間にわたり、ジャパン・サミットを開催した。従来は上部組織のハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)が秋に開く年次総会に合わせて商談会やファムツアーを企画しているが、需要回復につながる魅力ある商品をいち早く企画してもらうためにHTJが独自に開いた。日本からは旅行会社など24社約60人が参加した。

定番素材への依存度高く

 開催直前、マウナケア山頂上で建設計画が進められている超大型展望台(TMT)に反対する地元住民の抗議活動が行われた。そのため、火山ともう1つの主力商品である星空観察ツアーも頂上で観察できるのか不透明な状況となっており、サミット中のファムツアーでは山の中腹周辺での観察にとどまった。

 ハワイ島への航空路線をめぐってはハワイアン航空(HA)が16年末に羽田/コナ線を開設し、17年9月には日本航空(JL)が7年ぶりに成田/コナ線を再開した。ハワイ島観光に追い風が吹き、オアフ島に匹敵する観光地に育てていく機運が高まっていたところに2つの主力コンテンツが大打撃を受けた形で、サミット参加者からは「路線が維持されるのか」と不安視する声も多く聞かれた。

 これまでのハワイ島ツアーは火山と星空さえあれば、それなりに集客できる無難な商品ができた。しかし、定番コンテンツの依存度が高く、各社ごとの独自性を打ち出せていなかったのも事実。「こうした厳しい状況でこそ新しい動きが促進される」とHTJのミツエ・ヴァーレイ日本支局長がいうように前向きに捉える声も多く、サミットでは魅力創造に向けた議論が活発に進んだ。

 ハワイ島観光局は、同じ火山でも被災地観光を推進する。昨年の噴火で流出したマグマで一部が飲み込まれた島東部のレイラニ・エステートを巡るもので、もともとマグマ流出の危険性がある地域に指定されていたことから住民の被害者意識は強くなく、死者が1人も出なかったことで、いち早くコンテンツ化する動きが出ている。

火山の被災地観光

 ファムツアーでは、マグマに飲み込まれた住宅やマグマが隆起してできた丘など4カ所を巡った。蒸気を発している亀裂や、飲み込まれた資材など生々しい現場を間近で見学し、被災住民らが写真などを見せながら当時の状況などを語ってくれた。

 ハワイ島には、過去の火山活動で形成された溶岩台地や黒砂海岸が各所に散在しており、車から降りて溶岩を観察したり記念撮影をする観光客の姿が多く見られる。

 こうした背景もあり、最も新しい溶岩台地を見られることは一定数の需要が見込まれる。ツアーに参加したJATA海外旅行推進部の薦田祥司副部長は、「ガイド内容や見せ方を工夫することで十分に人気のツアーになりうる」と期待を示した。同島観光局などがツアー収益を被災地域にいかに還元するかなどを調整した後、早期に商品に組み込めるよう体制を整える計画だ。

インフラでは勝負しない

 ハワイ島は世界の気候帯17のうち10を有する多様な気候帯で知られる。外からの影響をあまり受けずに独自の生態系を形成してきた島でもあり、ネイチャーツアーはそうした豊かな自然を生かした強力なコンテンツになりうる。

 ファムツアーに組み込まれたハワイ・ネイチャー・エクスプローラーズの長谷川久美子さんが提供するツアーはかなりマニアック。キラウエア火山のふもとの在来植物の植物園では、種類だけでなく葉の形や色の理由まで説明し、参加者は興味深げに耳を傾けた。長谷川さんは「植物のストーリーを伝え、一人一人の満足度を高めることが大切」と話す。HTAが推進するサステイナブルツーリズムの考えに合致するうえ、独自の自然という土壌があるからこそできるハワイ島ならではの商品の一例で、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の修学旅行など特定層への高付加価値商品としても魅力ある商品となりそうだ。

観光地創造へヒロに共同バスの動き

 これまでは島西部が観光の中心だったが、新たなコンテンツという点では東部のヒロ地域は最も注目すべきところだ。津波被害から復興を繰り返したノスタルジックな街並みはありのままのハワイを知るには最適で、日系移民の店も軒を連ねている。観光地化されていないファーマーズマーケットでは地元の雰囲気を楽しむことができる。

ヒロの街並み(写真提供:HTJ)

 距離やスケジュールの関係で、これまでヒロへのツアーは少なく、日本人の宿泊者はほとんどいなかった。サミットでは観光地として定着させるため、旅行会社が東部の宿泊施設からヒロを結ぶバスを共同運行することが話し合われた。アウトバウンド促進協議会の北中南米・ハワイサブ部会は昨年4月に旅行7社の共同でコナ空港から東部のホテル数カ所を巡るバスを運行しており、火山噴火の需要減退で1年で中止になった経緯がある。この流れを踏襲する動きの1つだが、今回は新たな観光地を創造する狙いもある。

 鈴木卓部会長(近畿日本ツーリスト首都圏仕入・ウエブ事業部部長)は、「交通などインフラ面では業界で連携し、企画力などで勝負できるような体制を整えたい」と旅行各社に参加を呼びかけていく考えを示している。

 昨年150周年を迎えた日系移民、米国本土の観光客らに育まれた洗練されたアクティビティーなどハワイ島には人気コンテンツになりうる素材は多い。HTJはこうした多様な素材の商品化を推進するため、不足している日本語ガイドの教育などを行っていく方針を示している。