LCCのパイオニア、ハーブ・ケレハーが残した教訓
2019.08.19 08:00
今年1月、サウスウエスト航空の共同創立者ハーブ・ケレハーが亡くなった。英フィナンシャルタイムズはLCCの先駆者として、ウイスキーと煙草を愛した87歳の航空業界への貢献を称えた。
彼は航空旅行を大衆にもたらしたLCCのパイオニアだ。経歴は今日の経営者と企業家に対する洞察力に満ちる。フェイスブックの「素早く動き、伝統を打ち破れ」の時代でも業界を混乱させることは評判が悪い。しかし彼とサウスウエスト航空が実証したのは、通常通りの事業への取り組みで航空産業全体を進歩させることは困難でもやりがいがあるということだ。
サウスウエスト航空はイノベーションを導入した。複雑さを減らしたのでコストと要員が減り、1種類だけの航空機、ハブ&スポーク路線に代わり非主要空港利用で2地点間ルートを採用、コストのかかるケータリングをやめ、乗客、貨物の積み下ろし時間短縮で1日の運航回数を増やした。
当時の厳しい規制下において航空会社を創業するには断固とした精神力と決断力が必要で、認められるまでの法廷闘争は4年続いた。しかし重要なことは、彼と同僚が「スタッフが幸福になれば顧客も幸福になる」との信念のもと、人間ファーストのビジネスモデルを創設したことだ。
数年後、法廷闘争がサウスウエストに人員削減を強いる結果になったとき、会社はリースの4機中1機を減らしスタッフの一時解雇を避けた。その代わり会社は、残る航空機の積み降ろし時間を55分から5分に減らすようスタッフに求めた。後になって自分のアイデアでないと認めたが、彼は「投資家は全員、経営方針変更を要求したが、私は間違いをしない分別を持っていた」と述べた。
労使紛争の絶えない航空業界で、同社は従業員への利益分配を重視した先駆者で、過去44年間に45億ドル給付した。弔辞の中にはパイロット組合の代表もいた。この航空会社のボスは、スタッフに信頼と人間性を感じさせた。ケレハーのように実際以上に偉大に見えるリーダーたちはしばしばメディアの注目を浴びる。しかしサウスウエストのボスは、他の人たちも偉大な人間であると認めさせる内部文化を育てた。
彼はライバルと腕相撲し、会社のパーティーでエルビス・プレスリーの衣装でショーアップしたが、客室乗務員にもけしかけた。「グッドモーニング、(機内放送は続けて)喫煙を希望されるお客さまは翼の上のラウンジに出てください。有名な『風と共に去りぬ』を楽しめます」。冗談の背後には、ライバル航空が続々倒産する中で生き抜く手段に明敏な理解と厳粛な勤労倫理があった。
ブランソンやオレアリーに影響
経営の権威者たちが、「真のリーダーとは」について本を書き始める以前に、彼の哲学はヴァージン・アトランティック航空のリチャード・ブランソンやライアンエアーのマイケル・オレアリ―など企業家に影響を与えた。彼がもたらした教訓はより広く世界に採用されるだろう。経済危機以来、大企業の信頼が陰りを見せたが、それには当然の理由がある。サウスウエスト共同設立者の経歴が示すのは、事業経営を楽しみ、顧客にも楽しみと相応の価値を提供する革新的リーダーこそが信頼回復の鍵を握っているかもしれないということだ。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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