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外国人客3200万人、ギリシャ観光が好調の理由

2019年8月12日 8:00 AM

 ギリシャ経済危機は09年に始まり、EU金融支援は18年に終了したが、実はこの期間を通じてギリシャへの外国人旅行者が急速に増加し、同国の観光収入が飛躍的に拡大していた。複数の業界ウェブサイトによれば、入国者1998年620万人は、2010年に1500万人を突破、ここ6年継続して急成長し18年は過去最高の3200万人となった。

 3月の世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)年次経済効果統計が伝える18年の結果は、ギリシャ経済全体の成長2%に対して、観光分野は6.9%の伸長、収入総額はGDPの20.6%を占める375億ユーロであった。観光関連雇用は98万8600人で全就業者の4分の1、19年は100万人を超えると予測される。なお、ギリシャ観光連盟は、19年の旅行者数・収入は18年並みと予測している。

 昨年6月の英紙ガーディアンは、ギリシャ人気の要因として、トルコ、エジプトなど競合国のテロの不安も一因としている。また、中国市場取り込みのための北京/アテネ直行便開設など国としての努力も評価している。

 5月のフィナンシャルタイムズ紙は現在のギリシャ観光を総括する記事の冒頭で、「アテネのリヴィエラ」ヴリアメーニ半島の最高級ホテル、アスティールパレスが、3月、フォーシーズンブランドとして再開したと報じた。改装に1億5000万ユーロを投じて、民営化により湾岸諸国とトルコの複数の投資家に4億8000万ユーロで売却された。前観光大臣は、これは3年来ギリシャが目指す高級化路線の象徴と述べている。

 コンサルティング会社プライスウォーターハウスは、今後ギリシャ観光が力を傾注するべき領域は、第1に夏以外のシーズンへ拡散し、最終的に365日通年観光を目指すこととしている。ここ4年、冬期は40%伸びている。18年に導入された宿泊税は夏に限定するべきだ。第2に観光のギリシャ全域への分散で、現在13地域のうち5つで旅行者の80%、収入の90%を占めている。特に本島の旅行者の少ない地域への効果的なマーケティングが求められる。さらにEU支援の環境下で観光関連付加価値税が平均17%と競合国の平均10%より高いことも問題視している。

 一方で、こうした動きの負の側面について、ガーディアン紙は、すでに昨年、オーバーツーリズムの弊害を警告している。例えば、アテネでもアパートがエアビーアンドビー経由、民泊に転用され、地元民と軋轢が出ている。そしてギリシャで今もっとも深刻な状況にあるのは、エーゲ海最大の人気を誇るサントリーニ島である。76平方キロの小島を宿泊客だけで、12年330万人が17年550万人に増大した。クルーズ客は1日2000人から、ピークシーズンは1万8000人に達する。

クルーズ客を制限へ

 ついに5月、欧州議会輸送委員会は、過剰な旅行者が自然環境破壊、島民の生活インフラの劣化(ごみ処理、水の供給など)や貴重な観光資源の破損をもたらすとして、国と地方行政に対して抜本的な対処を求めた。サントリーニの市長は19年からクルーズ客を1日8000人に制限すると決定した。この問題がギリシャ観光の好況に直ちに影響を及ぼすとは思えないが、今後の展開には慎重に注目したい。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。