零細化する英国のリテール旅行エージェント

2019.08.05 08:00

 英国の旅行会社数と販売額は、この10年安定的に増加している。旅行会社が増えたのは1~9人の小企業マイクロビジネスが増えているからで、そこで働くスタッフ(エージェント)数は国全体で減少を続けている。

 英国政府統計局によると、旅行会社の中で(リテール)エージェンシーのスタッフは、17年6万668人から18年6万105人、さらに今年は13年以来初めて6万人を割り、5万9809人になると予想される。18年の登録エージェンシー数は4250社で、今年は4415社に増えると予想される。96%は社員1~9人で、この最小企業グループだけ企業数が増えている(英国旅行業協会〔ABTA〕報告)。

 過去2年に参入したエージェンシー新興企業の雇用者数は概ね2~4人といわれる。ITの進化と事務の機械化により少人数の起業は容易だが、近年はコンソーシアムやフランチャイザーになる中堅旅行会社が零細業者をグループに取り込んで規模を拡大している。それらは旅行業団体や国際航空運送協会(IATA)などに代表して加盟し、独自の消費者保護制度(弁済制度)やITを含む後方支援業務を引き受ける。

 リテール拠点の零細化は、ワンショップの零細企業だけでなく、特に在宅エージェントの急速な増加に象徴される。在宅エージェントは、ト―マスクックなど大手旅行会社の店舗閉鎖に伴う離職者、旅行分野にキャリアを求める新人や不況で失業した旅行業未経験者の職場として、あるいは大手旅行会社のセールスレップの独立などさまざまな背景で増えている。

 彼らが独立契約者として加入するホストエージェンシーはすでにブランドの確立した旅行会社で、ほとんどコスト増もなく規模を拡大できる。資産の少ない個人エージェントは傘下に入ることで信用も高まる。在宅ワーカーの増加は旅行業に限らない世界的傾向で、カナダでは在宅トラベルエージェントの割合が今年37%を超え(5年前は25%)、米国は70%(4年前は50%)だ。現在ABTA加入の在宅エージェントは1614人になった。

 最近、中堅旅行会社デべナムやハウス・オブ・フレイザーが経営困難に陥っている。またトーマスクックのさらなる店舗閉鎖と消滅の可能性、TUIも3月までの半期に3億ユーロの赤字を計上、さらにブレグジットで多くが消える予想がある。

 英国リテールコンソシアム「アドバンテッジ」のスティーブン・イーサム会長は旅行リテール市場で劇的変化が起きつつあるという。実際に英国の市街から大手旅行店舗が減り、中小規模の旅行店舗が増えた。大規模の伝統型旅行会社より零細業者の方がマンツーマンの対話で消費者に近く、市場動向に機敏に対応できる。SNSの自由な活用はビッグネームより仲間の情報を好む時代に相応しい。

 英国の統計は旅行会社をトラベルエージェンシーとツアーオペレーターに分類し、OTAはトラベルエージェンシーに含まれるが、エクスペディアなどは英国の旅行業ではない。ツアーオペレーターは総スタッフ数がエージェンシーの3分の1で、メガ3社を含め100人以上規模が50社あるが80%は9人以下だ。この10年、年によって増減はあるが、企業数もスタッフ数もほぼ変わってない。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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