ステイケーション、移動しない旅の新提案

2019.08.05 08:00

移動を前提としない新たな旅の提案があってもいい
(C)iStock.com/THEPALMER

わざわざ遠くまで出かけなくても、組み合わせや工夫次第で、近場でも非日常体験を提供できるはず。そんな発想で余暇の有効活用を推進できそうなのが欧米発のステイケーションというアイデアだ。観光産業にとっては新たな需要の取り込みにもつながるかもしれない。

 「stay-at-home」と「vacation」を組み合わせた造語であるステイケーションは、「自宅近くで宿泊体験」や「自宅近郊でぜいたくな休日」など使われ方や定義はまちまちで、日本ではまだ一般に定着している言葉とは言い難い。しかし欧米の旅行雑誌や旅行サイトを閲覧すると、ステイケーションという言葉の説明なしに、「この夏のファミリー・ステイケーションに最適」「ステイケーションなら〇〇ホテル」といった宿泊施設の広告宣伝を普通に見かけることができる。

 米国のクレジットカード情報サイト「ウォレットハブ」が、米国の180都市以上を対象に43の調査項目をスコア化してステイケーションデスティネーションのランキングとして発表するほど、ステイケーションは一般的になっており、英国ではブレグジット(EU離脱)に伴うポンド安を背景に、ステイケーションへの関心が高まっているとの見方もある。いずれにせよ欧米ではステイケーションが社会の関心事の1つとして認知されているわけだ。

 英国では、自宅近くの公園や美術館、遊園地など概ね車で20分以内のエリアで楽しむことを指していたなどともいわれているが、ステイケーションという造語がいつどこで生まれたかははっきりしない。分かっているのは欧米でステイケーションが一気に広がり市民権を得たのが、08年のリーマンショック以降だという点だ。

 海外のステイケーション関連記事の中には、英語辞典「ウェブスター」には09年ごろから掲載されているという報告もある。同年5月には米国の月刊誌「コンシューマー・レポート」がステイケーション特集を組み、経済不況により失業の不安を抱えたり、ガソリン価格の高騰に頭を抱えたりした消費者が、「従来の休暇に代わる経済的な余暇の過ごし方」を求めてステイケーションに行き着いたと分析した。飛行機に乗ってフロリダのディズニーワールドに出かけて行き伝統的なバケーションを楽しむのではなく、裏庭でバーベキューを楽しんだり、地元の美術館や公園で過ごすといった余暇スタイルが、新たに注目されていると報告している。

 多くの金と時間が必要だった伝統的なバケーションではない、より手軽で節約志向のバケーション、それがステイケーションというわけだ。欧米での流行は、人々の消費志向の変化とタイミングが合致した面もある。デラックスな宿泊や豪勢な料理を楽しむよりも、見栄を張らず自分が興味ある体験を重視するジェネレーションY(主に1989年~90年代半ばに生まれた世代)が社会の中心に躍り出てきたタイミング。設備の整ったホテルよりオーナーとの触れ合いが可能でしかも安価な民泊が好まれ、米国でエアビーアンドビーが急成長していった時期とも、ステイケーションの普及は一致する。

GW10連休で際立った課題

 国内では今年のゴールデンウイーク(GW)は史上初の10連休となり旅行需要が増大した。一方で、海外旅行や国内の遠出ばかりに需要が集中した結果、予約行動で出遅れてしまった消費者が旅行市場からはじき出されてしまう現象も起きた。

 阪急交通社が3月中旬に行った調査では、この時点でGWの予定を立てていなかった人は約8割だったが、すでに旅行予約は満杯。しかも価格も異常に高騰した。旅行を諦めた理由で最多だったのは「旅費が高くて諦めた」(46.6%)。ハワイの往復航空券がエコノミークラスで50万円などという高騰ぶりではこの結果もうなずける。

 こうした状況を見ても、旅行業界としても従来の定義を超えた旅のあり方を提示して、潜在需要を取り込んでいく必要があるだろう。その意味でステイケーションは一考に値する。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年8月5日号で】

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