まるかじり朝採れ野菜

2019.07.29 08:00

 北鎌倉から汐留のオフィスまで、それなりに遠い距離を通勤している。横須賀線の車内は有効活用しているが、やはり毎日通うのは結構大変だ。

 でもいいこともある。職場はビル街で家庭は自然の中なので、オン・オフが切り替えやすい。そして地元の新鮮な魚や野菜が手に入る。一家揃って野菜好きだが、鎌倉市農協連即売所、藤沢わいわい市、近所の無人販売所など調達先に事欠かないし、価格も驚くほど安い。朝露に濡れるがごとく光り輝いてみずみずしい野菜は、スーパーや商店街ではなかなか見られない。

 デジタル・デザイン・ラボの土肥聡美は、農業を通じた地域活性化を目指す。彼女の根底にあるのは、日本の食材の本当のおいしさを食卓に届けたいという想いだ。本当のおいしさを知ってもらうことで、地方や農業に対するリスペクトが生まれて、その地を訪ねる、通う、移住する。あわよくば農家後継者となることを期待している。

 実際に後継者問題を抱える自治体職員と一緒に解決策を考える研修に参加したり、個人で農業ビジネスを成功させている人を訪ねたりしてきた。

 農業の流通経路を調査していると、地方の野菜で特に単価の低いものや鮮度が落ちるのが早いものは、倉庫や市場での保管を含めて流通に時間がかかるので、大都市には出荷できないという現状がわかった。そんなことを言っているうちに、ご縁があって秋田県大館市とつながった。ご存じのとおりハチ公のふるさととして有名な秋田犬の里である。大館能代空港にはANAが東京から毎日2便運航していることもあり、さっそく一緒に訪ねてみた。

 佐藤ファームさんは、ここ数年夏場に枝豆の栽培を行っている。この採れたてが驚くほどおいしく、道の駅では人気商品だけど、前述のとおり東京には出荷できず、どうしても余剰が出てしまう。これを活用しようと枝豆ソフトクリームが開発されたし、飲料にする取り組みも行われている。

 ただ、やっぱりそのまま食べてもらうのが一番なので、なんとか東京の食卓に新鮮なまま届けたい。空港が近いので軽トラで持ってくれば、大館能代空港から羽田空港まではANAにお任せである。あとは羽田空港から消費者のところまでの配送と、扱ってくれるお店が見つかればできそうだ。

 こんなことはとっくに誰かが考えているはずだし、やっている例もあるかもしれないけどあまり知らないので、枝豆収穫のピーク時期に試しにやってみようということになった。

 既存の流通網にはまらず余剰を抱えている野菜を、提供できる人と欲しい人がつながるプラットフォームをつくれないだろうか。前日に翌朝の収穫量を入力すると欲しい人が予約する。翌朝収穫物を空港まで持っていくと、ANAが全国に運ぶ「空の市場」だ。

 地方で朝採ったものが夕方には各地の食卓に並ぶ。日本のおいしさがまるかじりできたら幸福度が上がるのは間違いない。誰もが考えそうなことだけど、あえてやってみようと思う。

津田佳明●ANAホールディングスデジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター。1992年に東京大学を卒業後、ANA入社。旅行代理店セールス、販促プロモーション、運賃、路線計画など営業・マーケティング関連業務を担当。2013年よりANAホールディングスへ出向し経営企画課長。16年より現職。19年よりアバター準備室長を兼務。

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