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だからマーケティングは面白い

2019年7月1日 8:00 AM

 日本の学校教育ではあまり教わらないが、社会に出た途端、もっともよく耳にする言葉の1つにマーケティングがある。社会人になってマーケティング部門に配属され、初めてこの言葉を聞いた時、頭の中に「?」の文字が浮かんだことを思い出す。あわてて教科書を探したり、広告会社の人を訪ねて話を聞いたりした頃は、今はもう昔と思う年齢になってきた。

 そもそもマーケティングの定義とは何だろうか。語源から考えれば、マーケット=市場であるから、市場を進行形、つまり活性化すること、というのが私の見解だ。また、市場=顧客でもあるから、顧客を相手に活動すること、ともいえるだろう。つまり、あくまで顧客とどう対峙するかについての考え方であり、仮説と検証を伴うのでサイエンス(科学)でもある。

 マーケティングは時代の変遷とともにその手法も変わる。30年前と今とでは業界の勢力図もまったく違うし、実際に使われているロジックも手段も重要な視点も大幅に変化した。

 昔、認知されることこそが重要な時代があった。今でももちろん、そこそこ重要だが、その意義はかなり急速に薄れてきていると考えている。その一方で興味・関心を喚起することの重要性が格段に増してきた。そして何よりも最後の刈り取り=予約・購入。ここにいかにスムーズかつスピーディーに結びつけるかが現代のマーケティング最大のキモだ。

 これは従来AIDMA(アイドマ)といわれてきたマーケティングでの購買段階説の理論が事実上崩壊しつつあることを示唆している。変化の背景には、消費行動が「慎重型」から「即判断型」へと変化したことに一因がある。つまり、知らないものは買わない、だから認知が大事だという時代から、知らなくても面白ければ即買うという積極的(もしくは興味本位の)消費の時代に変わってきたのだ。

 アマゾンや楽天といったEコマースのユーザーへの浸透も大きいのだが、むしろ消費するということの位置付けそのものが変わってきているように思える。事実、私の周囲にも、何万円もする家庭用VR機器をインターネットで見て、よく調べもせずに、価格だけでその場で衝動買いする人や、高額な動産を「夢だったから」と言いだして1カ月やそこらで買う人など、以前では考えられない行動をする人が次第に増えてきている。ネット時代は消費スピードをも変えつつあるのかもしれない。

 では、これからのマーケティングでは何が重要になるのだろうか。3つの重要な要素を挙げてみたい。まず、自社で得意客(ロイヤルカスタマー)をどれだけ保有できるか(顧客の維持)。次に、自社で不足する部分は、どこから手に入れるか(提携戦略)。そして、差別化をどこでするか(生き残り)。

 特定のものは必ずこの店で買うというのがロイヤルカスタマーだ。だが、こういう人も次第に減ってきてはいる。新しい挑戦者がよりいいものを出してくる。そういう兆候を顧客が見てとっているからともいえる。だからこそ、やはりこれはこの店でなくちゃと言わせ続けるブランド力は必須だ。ブランドとはユーザーへの約束である。約束(コミット)なくしてブランドなしである。

 とはいえ、すべてを自社で用意はできない。ここは苦手という分野は同業者の力を借りるのも一手だ。そして最後にマーケティングで最も困難かつ重要なのが差別化である。真の差別化は難しい。一般的な商品になるほど真似されやすいし、陳腐化も早い。この答えに終わりはない。だからマーケティングは面白い。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。