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『一泊二日 観光ホテル旅案内』 観光業の原点に思い馳せ

2019年7月1日 6:32 PM

甲斐みのり著/京阪神エルマガジン社刊/1600円+税

 趣味と実益を兼ね国内添乗員をしていた時期があったのだが、想定外に面白かったのがツアーで利用する大型観光ホテル。派手な装飾やショー、大きな売店にレストランと、すべてが新鮮だった。業界人の皆さまは「なにをいまさら」って感じだろうが、会社の慰安旅行も減っていると聞くし、個人旅行主体の現代の旅人たちにとって、大型観光ホテルは「新しい」のだ。

 そんな大型観光ホテルをまるごと1冊紹介しているのがこちらの本。著者自身、年に数回大型観光ホテルツアーを決行しているというだけあって、ホテルのセレクトや写真、文章にも観光ホテル愛があふれている。

 巻頭を飾るのは伊東温泉のハトヤホテルとホテルサンハトヤ。昭和世代なら宿泊経験がなくても「伊東に行くならハ・ト・ヤ」のCMで名前は知っているのでは。写真で見るハトヤホテルは、古き良きホテルの趣いっぱいだ。レトロな書体、随所に登場するハトのマーク、近未来的な屋内デザイン。鳩が登場するというショーも楽しそう。

 ほかにも塩原温泉郷のホテルニュー塩原、熱海のホテルニューアカオなど、「知ってる知ってる」と言いたくなるホテルが次々登場。周辺情報も掲載され、眺めているうちにだんだん仲間を誘って観光旅行に行きたくなってきた。そして読了後、印象に残ったのは、どのホテルもゲストのために趣向を凝らし、快適な滞在のために努力し、「楽しませよう」というサービス精神に満ちあふれていることだ。なんかいいな。

 近ごろ熱海がまた人気を盛り返しているというが、「気軽にみんなで楽しめる、楽しませてくれる、ちょっとレトロな温泉リゾート」というスタンスが愛されているようにも思う。日本の観光業の原点は、こんな大型観光ホテルで再発見できるのかもしれない。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。