2019年6月3日 1:13 PM
「本書のコンセプトは、一言でいうなら『食』の観点から世界の多様性を提示することです」(「まえがき」より)
こんな言葉から始まる本書に掲載されているのは、30の国や地域にわたる食文化の紹介とそのレシピだ――と言うと、普通のお料理本のようにも見えるが、執筆しているのが東京外国語大学の教授や専門家陣というのがミソ。カンボジア文学・文化の専門家、中国近世通俗文学・中国古典演劇の専門家、バルト・スラヴ学とリトアニア語学の専門家、オスマン朝史や西アジア社会史の専門家などがつづる各専門地域の食文化とレシピ、なんていかにも面白そうでしょう。旅を仕事にされている皆さんなら、きっと、自分が体験したリアルな思い出の味や食の風景が本書の中に見つかるはずだ。食の背景にある文化や歴史の話も非常に興味深く読めるし、もちろん知識も深まる。
例えば冒頭に登場する中国。卵をまぶすように炒める、日本でいう五目炒飯に近い「揚州炒飯」を題材に語られるのは、中国江南地方の豊かな食文化と暴君といわれた随の煬帝の生涯だ。質実剛健な家風で育ち、華やかな江南の文化に憧れた煬帝は大運河を開削し、各地から珍しい石や食材を運び、豪華な造園や美食にふけった。結果的に国を傾けた過ぎたぜいたくではあったが、揚州の文化は大きく発展し、炒飯などいまに伝わる名菜が育まれていった。
ほかにも、さまざまな専門家により、食を軸に文化の多様性が語られる。レシピも日本の料理本のように「2人前」「4人前」で計算されたものではなく、一度に作る分量でそのまま書かれていたり、なかには「森にきのこを採りに行く」からスタートしていたりするのが面白い。世界の多様性に触れる楽しい料理本だ
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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