Travel Journal Online

かわいい子には旅を!

2019年6月3日 8:00 AM

 自然豊かな宮崎県児湯郡新富町の新緑眩しい茶畑を、都心で暮らす高校生たちが地元の高校生たちと一緒に楽しげに話しながら歩いている。日本茶の栽培・加工・販売をする「夢茶房」を舞台に、フィールドワーク・ワークショップ・アイデア提案を行う、2泊3日の実証実験プログラムの一幕だ。

 デジタル・デザイン・ラボの大下眞央は、自分が学生時代をぼんやりと過ごしてしまった反省から、若いうちからイノベーションに必要な素養を身に付けるためのサポートをしたいという強い想いを持っていた。非日常体験である旅から得られる学びが大きな効果をもたらすと考えて、『イノ旅』プロジェクトをスタートさせた。

 初期段階では、東京学芸大学大学院の小宮山利恵子准教授の協力のもと、旅の効能について考えた。「日常と異なる環境に身をさらして新しい文化や価値観を理解することで多様性が身に付く」「初対面でのコミュニケーションや普段と違う習慣での生活で適応力が磨かれる」「旅につきもののハプニングを乗り切ることで危機対応力が養われる」など枚挙にいとまがなかった。

 ここで言う「旅」とは、TripというよりJourneyである。観光旅行や修学旅行での旅人と住人という距離感ではなく、現地の暮らしに自分がインストールされていないといけない。デバイスを通じて流れ込んでくる二次・次情報ではなく、現地でリアルタイムに自分の五感を使って取得する一次情報に、直接触れる重要性に気付くことが大切だと共感しあうことができた。

 こうした議論から、「旅を多くする人=移動距離が長い人のほうが圧倒的にイノベーティブである」という仮説が生まれた。そしてこれを証明する第1弾のステージが新富町となったのだ。

 東京の高校生たちは、民宿大部屋での寝泊まり、温泉共同浴場での入浴、育った環境の異なる同年齢との活動などに、最初こそ戸惑いもあったがすぐに順応していた。最後のアイデア提案セッションでは、純粋なものの見方、旺盛な好奇心、豊かな発想力にひとしきり感心した。彼らから「自分の生活環境とは全く異なる場所があり、そこで暮らす人々がいることを今回の体験で実感できた」「同世代の異なる意見にも共感できる部分が多くあった」という感想が聞けたのも大きな収穫だ。

 今回は、新富町・こゆ財団・夢茶房・高鍋高校・かえつ有明高校・i.clubの皆さまの多大なるご協力があり実現したが、第2弾以降も次々に行いながら実用サービス化を目指す。新富町をモデルケースとしながら他にも協力してもらえる地域に展開していきたい。

 少子化進展と相反して1人当たり教育費は増加傾向にある。授業料を払って塾の講習に行かせるのもいいけど、今後のグローバル社会を生き抜くのに必要なスキルを学ぶために、子供に遠くの知らない街へ旅をさせようというムーブメントが起きるとうれしい。

 現代版「可愛い子には旅をさせよ」で羽ばたく子供たちを、いつもサポートするエアラインでありたい。

津田佳明●ANAホールディングスデジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター。1992年に東京大学を卒業後、ANA入社。旅行代理店セールス、販促プロモーション、運賃、路線計画など営業・マーケティング関連業務を担当。2013年よりANAホールディングスへ出向し経営企画課長。16年より現職。19年よりアバター準備室長を兼務。