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中島ルーツ・スポーツ・ジャパン代表理事が語る「サイクルツーリズムで地域振興」  

2019年5月27日 5:27 PM

ルーツ・スポーツ・ジャパンは全国サイクルツーリズム連携推進協議会とサイクルツーリズムセミナーを開き、 イベント支援やコンサルティング事業などを手掛ける同社の中島祥元代表理事が、 独自の調査に基づく市場の現状や拡大に向けた取り組みを語った。

 サイクルツーリズムの魅力は、車や電車でできない体験ができることです。坂道を上ったり、風を感じながら景色を眺めたり、走ることそのものが楽しめる体験が可能です。歩くよりも多く移動できて観光できるという利点もあります。観光コンテンツと組み合わせることで地域の魅力を訴求できるコンテンツづくりも可能となります。

 たとえば、アニメの聖地巡礼と組み合わせるといったことなどです。国内では17年5月に自転車活用推進法が施行され、自転車活用の機運が高まっています。そのような追い風が吹くなか、地域におけるサイクルツーリズムの受け皿づくりは始まったばかりで、当社には何から始めればいいのかといった相談が増えています。

地走地消掲げ活動

 イベント事業についてはすでに成功事例がありますが、一方で全国的にサイクリングガイドが不足しているなどの現状があります。当社は全国にサイクルツーリズムを普及させていく活動をしています。サイクリストと地域をつなぐプラットフォームになることを目指し、サイクリストが地元を走り、楽しみ、消費する「地走地消」構想を掲げています。

 主な活動としては、サイクルイベント「ツール・ド・ニッポン」を12年から全国各地で開催しています。イベントは年々盛り上がっており、12年は総参加者数2900人・動員数5100人でしたが、16年には1万2050人・2万3500人に増えました。18年は関東・中部を中心に実施し、17地域で計約1万8000人が参加しました。

 そのような取り組みが評価され、スポーツ庁・観光庁・文化庁連携によるスポーツ文化ツーリズムアワード18のマイスター部門で入賞しました。イベントを地域ならではの形に落とし込み、海外からの誘客にもつなげる仕組みとして優れていると評価を受けました。

自治体の課題は

 サイクルツーリズムで地方誘客を目指す自治体を支援するなかで、いくつか問題点が見えてきました。まずサイクリスト、サイクルツーリズムの定義があいまいという点。200kmをロードバイクで走る人もいれば、5〜10kmをレンタサイクルで巡る人もいます。定義があいまいなので、顧客のセグメンテーションができず、顧客像がイメージできていない自治体もあるのではないかと考え始めました。

 サイクリストを俯瞰的に調査・分析したデータが存在しないこともあり、当社では観光庁のテーマ別観光による地方誘客事業の一環としてサイクリスト国勢調査を実施しました。15〜 69歳の男女1万人を対象にインターネット調査し、加えて全国のサイクリスト1750人からも回答を得ました。

国内人口は4000万人規模

 ここで行ったサイクルツーリズムの定義は、居住や勤務 ・通勤が行われる生活圏ではない地域を訪れ、自転車で走ることです。調査の結果から、マーケットのポテンシャルが見えてきました。サイクルツーリズムを経験したことがある人は全体の53.2%で、人口は約4143万人と推計できます。直近1年以内の経験者は20.3%、こちらは約1581万人と推計できます。

 国内の推定市場規模は1256億円になりました。1581万人がどうやら主要なターゲットとなるとの仮説が立ちますが、スキー・スノーボードが最も盛り上がった1998年の人口は1800万人といわれています。そう考えれば、有望な市場の1つといってもいいのではないでしょうか。

 消費動向を探ると、1人当たり消費額は3万1204円です。そのなかで、最も高いのがやはり宿泊施設で、全体の構成比26.0%を占める8119円でした。アクティビティー 3488円、お土産3439円、地元ガイド3363円と続きます。宿泊・休憩・飲食店をそれぞれ選ぶ際のポイントを聞くと、上位に挙がったのが「価格の安さ」でしたが、特徴的だったのは「自転車を安全に保管できる」ことや「無料Wi-Fi」といった設備面を重視している点です。

 特に保管は自転車ならではですが、自転車を室内に入れられるといったサービスを行っている施設などは、しっかり PRすれば集客につながるのではないでしょうか。また、各施設ともに「その土地ならではの名物」も求めていることが分かりました。走った地域については、84%が「自転車でまた走りに来たい」と回答しました。「友人に勧めたい」が77%、「自転車以外でまた観光したい」が69%であることを考えると、自転車でその地域を走ることがその地域のファンになり、その人がその地域を勧めるといった波及効果として非常に大きいことが分かります。

セグメントごとの対応を

 調査では自転車を使う主な用途・何のために乗るかといった点で、6つのタイプに大別しました。日常の移動手段、健康エクササイズ、旅行・レジャー手段、ツーリング、サイクリングイベント、レースの6層です。

 動機として「爽快な気分で走りたい」は6タイプ共通でしたが、たとえばツーリング層は「体力をつけて元気でいたい」「起伏・勾配を感じながら走りたい」、レース層では「限界に挑戦したい」「上位に入賞/表彰台に上がりたい」などの回答が多く、それぞれモチベーションが異なることが明らかになりました。

 可処分所得を見るとレース層が月6万4643円と最も高いですが、ツーリズム関連の出費では1万8793円となり、サイクリングイベント層が2万2172円と最も高い結果になります。人口推計ではツーリング60万8524人に対し、旅行・レジャー層は177万8762人と市場規模が大きく、1カ月の関連出費はツーリング1万953円に対し、2395円も高いことが分かります。これらの調査をもとにセグメントごとに具体的な施策を検討することをお勧めします。

 それと並行して地域、観光資源、既存施策を棚卸しして、整理してみましょう。地域ごとの深堀りの調査を行うと、効果的な施策づくりにつながります。サイクリストの動向が明らかになる一方、自治体側の現状はどうなのでしょうか。

自治体の取り組み状況は

 当法人が代表団体となる全国サイクルツーリズム連携推進協議会が主体となり、全国の都道府県・市町村に郵送調査を行い、現状のほか、今後の意向、課題について尋ねました。施策としては「イベントの開催」「マップの制作」「レンタル・シェアサイクル整備」「休憩地点の整備」の4つを多くやっていることが分かりました。

 しまなみ海道などを有する中国・四国地方は先進地域ですがイベントの開催は少ない一方で、シェアサイクル・地図づくりを注力していることも注目点の1つです。意識しているターゲットを尋ねた設問では、全体的に対象を決めている自治体はかなり少なく、東北・中国は比較的ターゲットを設定している傾向がありました。

 課題・阻害要因では、「ノウハウ・マンパワーの不足」「予算確保」といった回答が多くありました。関東・中部・近畿では、場所やコースの物理的な制約による要因が高くなる傾向が強いようです(詳細な調査結果はwww.tour-de-nippon.jp/series/)。

イベントやロゲイニング、電子マップ・・・

 地方誘客を進めるなか、当社では課題を解決するための取り組みや支援を行っています。ツール・ド・ニッポンですが、石川県加賀市では温泉、茨城県かすみがうら市ではエンデューロと呼ばれるレース形態を押し出した特色あるイベントを開催しています。認知の獲得、プロモーションに効果があり、大型イベントは初めの一歩として最適です。イベント以外の通年的な取り組みをお披露目する場にも活用できます。

 続いては制限時間内にチェックポイントを巡る野外ゲームのロゲイニング(ライドハンターズ)です。50〜 100カ所のスポットを決め、店や名所への立ち寄りや購買自体が得点になる仕組みで、ゲームそのものが実際の交流や消費行動につながるゲームがあります。自転車の速さを競うわけではないので、初心者も対象になります。

 得点に自撮り写真撮影が必要な仕組みなどを取り入れると、SNSを通じて地域の情報が拡散される効果も期待できます。大型イベントと比べて事前準備は少なく、当日のスタッフも数人いれば開催することができ、省エネ運営が可能という点も魅力的です。

 現在のサイクリングマップは紙が主流ですが、ウェブ・アプリサービスも展開しています。もちろん紙による利点も多くあります。地域の全体像がぱっと見て分かる一覧性があり、「行ってみたい」という衝動に駆られます。ただ、遠方のターゲットに情報を届けにくい、走行中に見にくい、複数のエリアとの網羅性を持ちにくい、といった課題もあります。

 アプリでは、走行中のナビゲーションアシスト、スポットのチェックイン、完走記念バッジもつくれる機能を搭載しました。かすみがうら市との連携で は、アプリで贈呈したバッジの画面を見せると、実際の店舗で商品と引き換えるといった試みを行いました。

 インバウンドは、まだまだこれから注力していく分野の1つです。17年度は3地域でモニターツアー、富士山ロングライドと連携したツアー商品を造成・販売しました。18年度はインバウンドツアーを初め て造成し、米国、オーストラリア、デンマーク、スイス、ニュージーランドから17人が参加してくれました。

 このような取り組みを進め、サイクルツーリズムの注目が高まるなか、もてなす地域もサイクリストも楽しいと思えるような良い循環をつくっていくよう取り組みを進めていきたいと思います。

なかしま・よしもと●1976年富山県高岡市生まれ。早稲田大学を卒業後、スポーツ関連ベンチャーの立ち上げに参加、取締役を務める。2009年に株式会社ルーツ・スポーツ・ジャパン、12年に一般社団法人ルー・スポーツ・ジャパン(当時はウィズスポ)を設立し、ともに代表を務める。