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10億人市場が見込まれるウエルネスツーリズム

2019年5月6日 8:00 AM

 ウエルネスを単純な日本語にするのは難しいが、説明的に述べると「身体的、精神的、そして社会的に健康で安心な状態」を作り出し維持する活動とでも呼べばよいかもしれない。欧米旅行サイトが今年のツーリズムにおける主要な潮流の1つに、ネットの拡大に伴いこれまで旅行の主要パーツであった宿泊や移動でなく、旅行者の関心が旅行先で何をするかに急速に移ることを挙げている。

 現にトリップアドバイザーは直近の年度で現地体験型サービスが前年比80%以上の伸びを示し、470億円の収入を達成した。同社の全収入の26%にも当たる。ブッキング・ホールディングスは現地ツアーや体験などを扱うアプリを開発したフェアハーバーを300億円近くで買収している。

 このように現地体験の重要性が増すなかで、関心を集め影響を拡大すると思われているのがウエルネスを中心に据えたツーリズム(ウエルネスツーリズム)だ。関連団体の調査では17年に世界中で8億3000万人がウエルネス旅行に参加、15年比で20%増加になる。同団体は今年もこの分野の伸びは続きウエルネス旅行者は世界で10億人を超えると予測する。

 すでに世界中でさまざまな地域がウエルネスを主軸とした販売戦略を導入する。例えば活動的で健康な食生活を楽しむ人々で有名なイタリアのロマーニャ地方では、フィットネス器具を製造する会社社長のアイデアでシリコンバレーをまねてビジットウエルネスバレーというキャンペーンを始めた。「ウエルネスバレー、あなたを気持ちよくさせる谷」というわけである。

 この地域が目指す市場はローマ、フィレンツェ、ベニスなどをすでに経験し、観光化されすぎていない本当のイタリアを体験したい人たち。最近問題となるオーバーツーリズムへの対処方法の1つといえる。ある意味この分野の先進国といえるスイスでは、ウエルネス認証制度が開始された。スイスの主張はスイスで旅行者が何をしてもそれはウエルネス休暇になる、である。今後は治療・療養といった医療分野が大事になるとの意見も多い。

日本の先進性を訴える

 このように書いて思うのは、日本はこの面でより積極的なキャンペーンができるはずということだ。温泉地は農閑期の療養など昔から行っており、いわばウエルネスツーリズムの創始者である。健康な食事、都会も含め良質な空気、優れたしかもバラエティ豊かな自然、清潔な交通インフラ、安全性、高い医療水準など、あらゆるものが揃っている。まして、主要市場であるアジア諸国はまだ全般的にウエルネスに優れているといえない面もあり、マスクをしないで済むことが日本の魅力という旅行者もいるほどだ。

 マーケットのプライドを傷つけることなくこうした点をうまく伝え、ウエルネスの面での日本の先進性を訴えることができれば、さらなるマーケットの拡大、しかも比較的裕福で生活態度も好ましい旅行者をすでにキャパシティーを超えつつある地域とは異なるエリアに招くことを可能にするマジックアイテムになるかもしれない。個別には取り組まれているが、国全体あるいは地域全体をウエルネスデスティネーションと位置付けキャッチフレーズを考え取り組むことが望ましい。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。