2019年4月29日 8:00 AM
ダイナミックプライス(変動型料金)がさまざまな分野に広がっている。その源の旅行業界では、海外航空券や宿泊の単品販売からパッケージツアーに波及し、ついに国内ツアー運賃にも導入される見通しになった。旅行会社はビジネスモデルの見直しを迫られることになり、衝撃が広がっている。
需要と供給によって価格が刻々と変動するダイナミックプライスが新たに多くのビジネス分野で導入され始めている。スポーツ界では、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスがヤフーと組み、16年から観戦チケットで実証試験を実施。17年からは主催公式戦のチケットを価格変動形式で販売開始した。東北楽天イーグルスや東京ヤクルトスワローズも同年から導入。19年からは横浜DeNAベイスターズもその仲間に加わるなど広がりを見せている。
サッカーJリーグでも導入が加速している。18年シーズンからセレッソ大阪、ガンバ大阪、川崎フロンターレなどが一部の試合で適用し、19年シーズンからは横浜マリノスが一部企画チケットを除く全席種・試合で、名古屋グランパスエイトもホーム開催全試合の観戦チケットで導入した。
テーマパーク分野でも、ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)が今年から新たに価格変動制の入場料金を設定した。こちらは旅行業界で当たり前となっているシーズナリティーの導入というレベルだが、通年で同一料金が一般的だったテーマパーク業界にとっては、ダイナミックプライスの発想を取り入れた決断だったといえる。
こうした動きに合わせ、三井物産、ヤフー、ぴあの3者は昨年、企業にダイナミックプライシング技術を取り入れた各種サービスを提供するため、共同出資でダイナミックプラスを設立。フォルシアは美容・リラクゼーション業界など幅広い分野への応用を目指し、京都大学と共同で数理モデルを用いた値付け方法を研究している。
また、国土交通省は「タクシー革新プラン」に基づき、昨秋にタクシー料金のダイナミックプライス化を視野に入れ、変動迎車料金の実証実験を実施した。需要変動の大きい電力業界でも、ダイナミックプライスの実験が進められている。
旅行業界での導入は早く、すでに航空運賃やホテル料金、クルーズ料金はダイナミックプライスが珍しくない。航空会社はローコストキャリア(LCC)の台頭に伴い、イールドマネジメントが一段と厳格化するのに合わせて拡大している。
ホテル業界ではシステム開発が進む。16年にはマリオット・インターナショナルがダイナミックプライスを旅行会社にリアルタイムで提供するシステムを開発。インターコンチネンタルホテルズグループはダイナミックプライスとロイヤリティープログラムを連動させて顧客の囲い込みを強化する仕組みを開発した。独立系ホテルや小規模チェーンでも、AI(人工知能)を活用したダイナミックプライシングシステムを提供する専門業者の製品を導入する流れが加速。変動制へのシフトは国内ホテルも例外ではない。
クルーズ業界では海外の客船会社で乗船料金が日々更新されている。宿泊予約サイトと同様、その時点の料金を検索できるクルーズ専門予約サイトもある。
こうしたダイナミックプライスは、旅行素材単品での販売はもとより、航空券とホテルを自由にインターネット上で組み合わせて売るダイナミックパッケージで主に用いられてきた。その一方で、導入が進んでいなかった分野がパッケージツアーだ。海外ツアーは国際航空券の公示運賃への移行とともにダイナミックプライスへの対応を余儀なくされているが、国内ツアーは航空会社が個人型包括旅行割引運賃(IIT)を維持してきたため、最も影響が及んでいなかった。
ところが今年1月、全日空(NH)が現行のIITを廃止し、ダイナミックプライスに移行する方針を旅行会社に通知し、日本航空(JL)も同様の方針を示した。導入されれば、長年にわたり固定型運賃を前提としてきたパッケージツアー自体の存続にもかかわるだけに、旅行各社は重大な岐路に立たされることになる。
【続きは週刊トラベルジャーナル19年4月29日号で】[1]
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