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グローバルとローカルの真の意味

2019年4月29日 8:00 AM

 ロンドンを数年ぶりに訪れた。前職で最初に英国に子会社を設立してから7年になる。結局その時に設立した法人は閉鎖。その使命を終えたからでもあるが、思ったようには事業のローカライズが進まなかったのも事実だ。経営者としての自らの未熟さを恥じる気持ちが交錯するなか、小雨のシティの街並みを歩いた。

 折しもハードブレグジット(合意なきEU離脱)へ突入せんとするなか、街も人も落ち込んだ雰囲気であろうと想像していたが真逆であった。人々には笑みが絶えず、新しいビルが増え、まるでいまのルクセンブルクのようでもある。ニュースで見る世界と現実の違いを実感した。

 よく「グローバルに考えて、ローカルに行動せよ」という人がいる。とてもかっこいい言葉だが、これができている会社を見たことがない。

 世の中がグローバル化しているのは事実だ。それはビジネスを仕掛けているわれわれがではなく、マーケット(ユーザー)がである。ジョブスが、そしてスマホが変えてしまったいまの世界は、どこにいっても消費者がしている行動はマーケティング的には大きな差異がなくなった。その意味ではグローバルに考え、は正しい。

 問題はローカルでどう行動すべきかである。ポイントは、①世界中の組織で同じ目標をシェアできているか、②本社(HQ)の権限が強過ぎないか、③現地スタッフとのコミュニケーションは円滑か、である。

 まず、最初のポイントは、違う場所にいるチーム同士で同じ目標に向かって動けるかである。これが一番難しい。時差、言語の壁、文化の壁、あらゆる壁が立ちはだかる。仮に同じ目標を持てても成果の評価はより重要である。公正な人事評価は同じ国にいる者同士でも難しいが、海外にチームが点在となるとさらに困難になる。

 次に本社(HQ)の権力が強すぎる会社、これも伸びない。支店長、支社長といえども、たいがいお飾りだ。日本に進出する外資系企業を見れば容易に察しがつく。結構な大企業でも、本社以外の現地役員に独自権限が付与されている状況はほぼお目にかかったことがない。

 最後の点は相互コミュニケーションだ。時差の壁を越えるためには世界にオフィスが3拠点以上ある場合、必ず誰か(どこか)が犠牲になる。つまり真夜中に会議に出ないといけない人が出てくるのだ。これを防ごうと世界を2地点同士の3大エリアに分割する案もあるが、私の経験では失敗した。とはいえ、メールだけではさらにうわべだけの会話となってしまい、なかなか真の問題を共有できない。

 この限界を突破するべく、いまとある欧州企業の日本事業展開の責任者を請け負っている。始めて半年ほどたったが、何度も本社の役員とけんかやののしりあいをした。頻繁に日欧間を往復もする。最初にお互いそうしようと決めていたのだ。自分の会社を長く経営していただけなので、他人の会社、しかも外資系の新進気鋭の会社で、果たして自らの実力が発揮できるか、試してみたい気持ちもあった。

 いま振り返ると、100点満点には程遠いが合格点の70点は軽くクリアしていると自己分析できる。自分がいままで強い立場で経営できた頃と違い、すべて自分は弱小勢力、ゆえに実力で結果をもって目にもの見せるほか説得できる方法がない。そう追い込みつつ、グローバル経営のヒントを探りたかった。

 ヒントはあらゆるシーンを使って日欧両チームに時に溶け込み、時に殴り込む。これが成功の鍵と理解し日々実践している。これがローカルに行動するという真の意味ではないかと思う。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。