古民家再生と地域の未来

2019.04.15 08:00

 日本では全住宅6365万戸中1076万戸が空き家で空き家率16.9%(18年)。野村総合研究所によれば、10年後の28年には6884万戸中1757万戸が空き家になるという。実に空き家率25.5%で国内の建物の4軒に1軒は空き家となる。仕事柄地方部を訪れることが多いが、年々空き家を見かける頻度が高くなってきた。夕闇迫る時刻に里を通りすぎる際、本来明かりの灯るはずの人家が夕焼け空の影絵の中で真っ暗なままの姿を見ると人口減少の深刻さを体感する。

 そうしたなか、近年いわゆる古民家がブームだ。一般的に建築後50年経過した建物が古民家(昔の住宅)と呼ばれるようだが、専門的には1950年に制定された建築基準法施行前の伝統的技法で建てられたもののみが古民家と定義されるようだ(約157万棟が現存するという)。

 しかしそうした古民家もまた、凄まじい勢いで毎年失われている。実際、室町時代に起源をさかのぼれるとされ、専門家が重要文化財級と評価した京都市内の最古級の町家が開発事業者の手に渡り、解体され更地にされたケースが話題になった。これは氷山の一角だ。古民家の解体現場に遭遇することも少なくない。価値ある伝統的建造物が各地で急速に失われ続けている。

 古民家ブームの背景として、日本人の中にも喪失しつつある伝統的なものへの無意識の懐古の念・憧憬が芽生えつつあるのかもしれない。ところが日本では、いまなお新設住宅着工件数こそが景気判断の重要指標となっており、その伸び率ばかり重視されてきた。上述のとおり1076万戸もの空き家があるのに、新たに日本中で昨年94万2370戸もの住宅が作られている。

 たとえば欧州では、土地開発自体が厳しく規制され、自由に宅地開発することは原則不可能だ。また、新設の建物が古い建物群とマッチするのか、そしてそもそも古い建物を壊して立て直してよいか、その是非が厳密にチェックされる。一方で価値ある文化財級の建物が残されていくことによって、その地域全体の価値が上がる。それゆえ欧州では古い建物群が数百年単位で活用されてきた。欧州の主要観光都市の第一の魅力は、高名な寺院や城郭というよりも、そうした無名の古き良き住宅群によって構成されている町並みの景観なのである。

 日本でも国土交通省が、ようやく主にインバウンド振興の観点から、古民家等を活用した観光まちづくりを積極的に推進し始めた。農林水産省も20年までに500カ所の農泊地域創出を目標設定している。古民家再生を進めていく上での重要ポイント(成功の条件)は次の6つにまとめられるだろう。

 ①シビックプライド=地域住民の誇り形成。地域の未来ビジョンの醸成と共有、②地域内での調整機能・支援機能を持った法人の創出、③公的補助金類だけに頼らない自立性・自走性の確保、④高いインバウンド対応能力に基づく高い稼働率、国内市場だけに頼らないグローバルマーケィング機能、⑤建物の機能性(水回りの快適性、耐震性、気密性等)確保と歴史的価値(素材・工法の本物性)の両立、⑥波及的価値の創出、すなわち地域とのつながりや食材等を通した農林漁業・地域の暮らしとの接点。点ではなく面、地域の景観全体の修景への配慮等。

 何より人口が縮みゆく日本においては、そろそろ戦後の総人口・生産年齢人口増大期のパラダイムを転換し、新規着工件数の上限を厳密に設定し、地域の土地利用用途変更に関する許認可の厳格化が不可欠となる。各地域が世界の観光客を集めていく上で、地域の既存のストックを生かす古民家再生には無限の可能性がある。

中村好明●日本インバウンド連合会理事長。1963年生まれ。ドン・キホーテ(現PPIHグループ)入社後、分社独立し、ジャパンインバウンドソリューションズ社長に就任。官民のインバウンド振興支援に従事。ハリウッド大学大学院客員教授、国際22世紀みらい会議議長、全国免税店協会副会長。

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