おひとりさまの牛窪恵氏が語る「世代価値観に見る旅行市場」

2019.04.01 08:00

わかるようでいてわからない世代による価値観や行動原理の違い。見えているようでぼやけたままの消費者像。そんなモヤモヤを晴らしてくれたのが今回の講演。「おひとりさま」「草食系男子」の言葉を世に広めた牛窪恵さんが世代特性をわかりやすく切り分けてくれた。

 「とりあえずビール」がなぜ若い世代に受け入れられないか。以前、ビールメーカーに調査を依頼されました。さまざまな調査やインタビューから見えてきたのは、世代の特性とその特性が育まれた背景にある社会の動きでした。調査対象の世代いわく、「ビール飲んで何になるんですか?」「とりあえずビールを飲む意味がわからない」なのです。個性重視の教育で育った彼らにとって、好きでもないビールを「とりあえず」で飲むのは理解不能で、1杯目から好きなものを飲む方が合理的。みんなで一斉にビールは、無駄なのです。


 毎年、年末になるとヒット商品リストを目にすることが多くなります。昨年は「TikTok(ティックトック)」「ハットグ」「VTuber(Vチューバ―)」が話題になりました。短い動画をシェアするティックトック、伸びるチーズが面白いと話題になった韓国式ホットドッグのハットグ。Vチューバ―はバーチャルのユーチューバーを指します。代表的なキズナアイはバーチャルな存在であるにもかかわらず、訪日促進アンバサダーに就任するほど注目を集めました。

 共通するのは10~20代の動画視聴世代がヒットの中心にいたこと。自分で動画情報を発信する世代が面白いと評価して爆発的に広がりました。ハットグは本来は食べ物ですが、動画映えする面白さが受けました。美味しいから食べるのではなく、ネタになるから食べるわけです。

 たとえば、猫のたま駅長が就任した鉄道駅は、1万人ちょっとだった1カ月の乗降客が現在は20万人まで跳ね上がりました。続けとばかりに動物駅長が続々と誕生し、金魚の駅長まで登場しました。つまり旅行も、もはや「行きたいから行く」のではなく、若い世代は「SNSのネタになるから行く」のが当たり前になりつつあるのです。

 一方で、これもまたヒットした豪華寝台列車や映画『ボヘミアン・ラプソディ』、ロカボ食品の共通点は、団塊世代を含む好奇心旺盛なネオシニア層が支えたヒットだということです。昔なら60代は隠居の年齢ですが、いまでは情報の発信源であり消費の担い手。また、60代女性は20代女性より2倍も通販の購入金額が多いのです。

17~23歳時の社会を反映

 世代の特性を決定づけるうえで重要なのは、人生の多感な時代をどんな社会背景のもとで育ったかだといわれます。脳科学的にいうと、子供の脳が大人の脳に切り替わる14~16歳の直後、17~23歳前後が大切なのだそうです。たとえば現在、46~59歳になったバブル世代は、青春時代に右肩上がりの経済発展を体感した世代で、先進的なモノへの憧れが強く冒険好きです。海外旅行ブームに乗り、ワンレン・ボディコンブームの時代にディスコで踊り、トレンディドラマや高級ブランドのブームを体験したバブル世代は、頑張れば報われた、失敗しても何とかなった体験があるだけに、恋愛でも失敗を恐れず立ち向かう恋愛至上主義世代でもあります。


 しかし、1990年代後半に男女雇用機会均等法が改正され、女性の社会進出が進み、未婚化が進行します。そこからシングル女子のおひとりさま消費やシングル男子の独身王子消費も生まれました。ちなみに未婚化は以降も進み、いまでは30代女性の28.5%、30代男性の40.5%が未婚で、現在の29歳以下の女性の4人に1人、男性の3人に1人が生涯未婚になると予測されます。

 現在、43~48歳の団塊ジュニア世代は、高校から大学にかけての多感な時代にバブル崩壊を迎えました。貧乏クジ世代と呼ばれるゆえんです。男女平等、ワリカン文化で育った結果、男女の役割分担が緩い友だちカップルが当たり前。デートもワリカンで、彼氏にご馳走してもらえないならお金を出してくれる母親と出かける方を選ぶ、ママと仲良しの「母娘消費」が生まれます。深刻なイジメも直接・間接的に経験しているため、ブランド物や目立つことを嫌ったり、お金より情報に価値を見いだしたりしているのも特徴です。

草食系世代とさとり世代

 現在32~40歳のアラサー~草食系世代は、バブル崩壊後の右肩下がりの時代をずっと生きてきた世代です。モテることより嫌われたくない意識が強く、草食系でもあり、男性の美容への関心も高いのが特徴です。癒やしという言葉に大きな価値を見いだすのもこのあたりからで、旅先でもゆったりと過ごし、自宅にいるようにノンストレスでいられることを重視します。もしくは、その真逆のゼロ泊3日のような弾丸ツアーまで振り切るか、のいずれかです。

 また、「とりあえず貯金」が当たり前で、男性もポイントカードは5枚以上持ち、旅行に際してはマイレージを重視。将来不安の中で育ってきただけに自作の弁当を職場に持ってくる節約男子も珍しくありません。地元が好きで、外食より「おうちデート」を好む「おうち世代」でもあります。職場でも競争するより周りとゆるくつながり、ナンバーワンよりオンリーワンを求めます。

 さらに、その下の22~31歳は、ゆとり教育を受けたゆとり世代。10歳前後からパソコン、携帯が当たり前のデジタルネイティブで、親とも仲良くラインでつながっています。親との仲の良さは住居選びにも表れており、現20~30代は妻か夫の実家から30分以内に住む比率が65%を超えています。就職も親元、地元志向で、地元での就職希望者が7割弱を占めています。コスパ消費に長けており、旅行に関しても見た目の価格だけに惑わされず、トータルで考えてどちらがコスパが上、何が得かを冷静に判断できます。

 彼らが最もコスパに合わないと考えるのが恋愛です。現在、20代男女の約7割に恋人がいません。万が一にも相手がストーカーやDVをするようだったら怖いとも考え、「いつかは恋愛もしたいけれど、今でなくていい」と先送りが続いていく。20~34歳男子の恋人なしは、約20年間で1.7倍という統計も恋愛回避の傾向を裏付けています。

 これからの旅行は行き先選びも「ココロ」が鍵を握ります。切り替えたいのか、輝きたいのか、気分を上げたいのか。あるいは共感したいのか、自分磨きをしたいのか、成長したいのか等々。ターゲットがなぜそれを求めるのか、ココロを考えれば見えてくることは少なくないはずです。

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