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波紋投げかける欧州LCCの旅行事業展開

2019年4月1日 8:00 AM

 欧州LCC2位のイージージェットによるツアオペレーター進出が旅行業界に波紋を投じている。一方、LCC1位のライアンエアーはパッケージ旅行部門を突然廃止した。英国の旅行市場は大きいが、LCCの旅行事業は楽ではないようだ。

 ライアンエアーは16年12月にライアンエアーホリデイを設立し、当時はドイツ格安スーパー流の割引販売で欧州全域のパッケージ旅行市場をターゲットにし、やがて旅行業界のアマゾンになると宣言した。しかし間もなく、提携したテクノロジープロバイダーとの関係が支障になり頓挫したが、17年3月にドイツの旅行プロバイダーのHLXツーリスティック、ブッキングエンジンのピークワークなどと提携して運用を再開した。

 完全な消費者保護を約束し、3~5つ星ホテルと契約してパッケージを扱う。年間12億人のライアンエアー旅客のうちリゾート客の1割が顧客になる想定だった。パッケージ申込客には、インセンティブとしてフライトのポイントを提供した。

 しかしこの1月、パッケージ旅行部門を突然閉鎖し、代わりにホテルだけを扱うライアンエアールームの客室を増やし、料金の10%を航空運賃に利用できる仕組みで当面はホテル部門を強化推進する方針に転換した。同社はパッケージブランドをやめた理由や実績を発表していない。付帯収入28%に含まれるが内訳は不明だ。責任者はパッケージ販売に時間がかかり、消費者に浸透させるのが容易でないことを認めた。

 イージージェットは07年に設立して休眠していたイージージェットホリデイを下期に復活させる。昨年TUIから参加したG・ウイルソンがCEOになり、イージージェットの利用者2000万人をベースに、ニッチプレイヤーでなくあらゆるプロダクトを提供する本格的オペレーターを目指す。

 ウイルソンは「航空事業とツアーオペレーションを一緒に運営するのは難しい。航空部門は7時間の機内のことが重要だが、旅行部門は人が1週間どこでお金を使おうとしているかを考える。旅行事業を理解する人材が重要だ」と述べた。

 イージージェットは人気デスティネーションのシェアが大きく、ホテルとの直接取引もある。すでに各地にホテルを購入しているが、ホテル部門をインハウスおよび直接契約で取り込み、ベッドバンクも利用する。蓄積したデータと新たなデジタル機能でコンバージョンと顧客定着率を高めるが、競合する他のオペレーターよりLCCとして有利性があると自認する。同社の直売モデルは成功しており、第3者販売モデルも排除しないとする。

シェア争奪と価格競争

 イージージェットの動きは英国市場でシェア争奪と価格競争を激化させるだろう。英国のツアーオペレーター数は昨年1820社(旅行業協会会員は約800社)で販売の多くをリテールエージェントに依存する。多くは音楽、美術、スポーツ、歴史などに特化した小規模ニッチで財務基盤も弱い。

 TUI、ジェット2、トーマスクックの大手3社は、リゾートに多数の航空機を運航して正面から競合するが、TUIとトーマスクックには広範な自社販売網と顧客ベースがある。最も影響を受けそうなのはダイナミックパッケージの取り扱いが大きい大手OTAで顧客を奪われる可能性が高い。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。