気候変動が航空運輸と観光を脅かしている

2019.03.25 08:00

 ドイツ人は環境問題に敏感で、旅行会社も環境への取り組みに配慮する。ドイツの新聞は専門誌ネイチャー・クライメート・チェンジ掲載の論文から観光による温室効果ガス排出量は正確には従来値の4倍も多く、旅行者の炭素排出量を国別でみるとドイツ人は世界3位になると報じた。

 シドニー大学研究者チームは観光による温室効果ガス調査では160余りの送出と受入国間の旅行に運輸、ホテルだけでなく買い物、飲食など目的地でのサービスを計算に入れて炭素排出量を算出した。09年から13年では観光による炭素排出量はCO2換算で39億トンから45億トンの増加となり、従来用いられてきた値の4倍となる。これは世界全温室効果ガス排出量の8%に相当し、高所得国とその旅行者が大半の炭素を生む。世界の経済成長に寄与する観光だが、成長速度は観光分野の脱炭素技術と政策を超えており、世界の温室効果ガスを増加させていると観光に警鐘を鳴らす。

 一方、世界各地から異常気象による大被害が連日報道される。この半年ABCテレビ報道に暴風、寒波や洪水による米国の空港や道路封鎖の画像が出ない日はない。観光が受ける被害は甚大である。

 年末にフィナンシャルタイムズは気候が航空会社と旅行者に大きなリスクとなったと以下のように報じた。欧州航空航法安全機構によれば気候変動による諸影響が飛行に悪影響を及ぼす。気温上昇は航空機の離陸を難しくさせ、多発する強力な暴風で飛行は不安定となり空の楽しみは減る。海水面上昇でバルセロナや香港のような臨海空港の滑走路は浸水するなど気候が破壊的になっている。

 気候に起因する飛行時間の遅れは14年から18年に6倍に跳ね上がり、18年には遅延の最大の原因となった。急増する晴天乱気流も旅客を身震いさせた。暴風の乱気流と違い不可視で予知が難しい。レディング大学大気科学チームによれば気候変動で大西洋ジェット気流が不安定化し、晴天乱気流は以前の2~3倍多く観測された。チームは予測アルゴリズムを開発し、米国で使用されて成果を挙げる。IATAの乱気流諮問委員会は最近乱気流データベースを立ち上げ、飛行中の操縦士からの報告を含むさまざまなデータを結び付けて乱気流回避に利用する。

飛行機の揚力は少なくなり

 気候変動は空港の根幹を揺るがす。温暖化で飛行機の揚力が少なくなり、暖かい高地の空港は貨物や燃料を減らし、滑走路を長くする必要がでてきた。また大雨や海水面上昇で海に面した滑走路は洪水となり、香港空港第3滑走路は水面上6.5m高さの壁を建設している。冠水の恐れは現実化し、昨年9月の台風21号で関西空港は使用不能に陥った。昨年国際空港評議会は会員が気候変動による影響をリスクアセスメントと将来計画に配慮すべきことを促す決議を採択している。

 欧州航空航法安全機構は、航空産業から気候変動コストの数値が出されず、見積もっていないと苦言を呈し、非政府機関の欧州交通環境連盟も航空会社は気候変動のインパクトに関しオープンな論議やコスト試算を怠っていると不満を示した。

 観光が環境に及ぼす悪影響、他方、気候変動による航空運輸と観光が被る被害、ともに不確かな数値が問題解決に影を投げかけている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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