Travel Journal Online

「21の不都合な真実」に見るツーリズム産業の頼りなさ

2019年3月11日 8:00 AM

 12年にニューヨークで設立されたツーリズム関連情報を取り扱うサイトがある。旅行、宿泊、航空、ネット、DMO、MICE、飲食などカバーする分野は広い。筆者も定期的にサイトを訪れているが、最近になって昨年夏にサイト創設者がツーリズム産業に関わった6年を振り返り、「私が見つけたツーリズム産業の21の不都合な真実」というユニークな記事を発表していることに気づいた。論調は皮肉交じりの冗談という雰囲気だが、本気の気配もあり興味深い。ポイントだけ紹介する。

 まずは、(1)ツーリズムが世界の最大産業であるからにはその産業界もそれなりにふるまうべきであるがそうなっていない。さらに(2)ツーリズムの発展にツーリズム産業自体の寄与はほとんどない! (3)ツーリズム産業界は変化を嫌う。にもかかわらずエアビーのような抗えない変化には自分たちのおかげと主張。(4)ツーリズム業界の新規事業にはほとんど革新的要素がない。創造的なものは業界周辺の小企業が開拓。(5)各種業界団体はせいぜい現状維持しかできず、業界の発展に役立つことはない。(6)この変化を嫌う業界でコンサルタントは暴れまわり金を搾り取る。また、彼らが広める頭字語がはびこっている。最悪はMICE!

 (7)販促手法には限りがある。このためDMOやホテルや旅行会社や運輸会社などの販促がたびたび同じような内容になり区別がつかない。(8)斬新で体験型の旅行は旅行の原型であり昔から存在したのになぜか新しいものとして扱われている。(9)航空会社はツーリズム業界で最も偏狭な組織で、経営者が表面上何と言おうと本音では自分たち以外のツーリズム産業に関心はない。(10)各種データが業界にはあふれかえっていて、常に漏れ出している。誰もどうしたらよいか分からない。(11)白人男性至上主義が業界に蔓延していて変化の兆しもない。(12)ツーリズムのような業界ではより進歩的な政治理念が主流と思っていたが、実際には大半の経営者が共和党支持者と知って驚いた。さすがに現指導者を支持する人は少ないようだが。(13)持続可能性など誰も気にしていない。時々気にしているふりをするだけのこと。

 (14)旅行代理店はその存在意義が確かにある。大金持ち相手の旅行分野に限るが。(15)西半球以外の旅行市場に誰も本当は関心を持っていない。(16)本当は重要な国内旅行は無視されている。(17)政治家はツーリズムに興味がなくその経済価値や雇用価値などにも知識が不足。(18)ビザこそがツーリズム拡大の最大要因。(19)業界紙(誌)は無価値。消費者向け雑誌は広告宣伝ばかり。(20)ごく少数の例外を除き、旅行やホスピタリティーの教育機関では若い人に古臭い仕事のやり方しか教えていない。生徒のほうが新しい潮流を知っている。(21)暮らすように旅するというキャッチが販促で使われるが、われわれはすべて旅行者で、業界人がそれを真に理解することが責任を果たすには重要。

 これは違うというものもあるし、欧米中心の見方もあって、すべて正しく面白いわけではない。また、読者によっては腹立たしく感じる部分もあるかもしれないが、日本のメディアではなかなか見られないもので、こうした自己批判的視点が業界紙で流されるところは見習ってよい気もする。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。