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激化するオーバーツーリズムに欧州各地で課税の動き

2019年3月4日 8:00 AM

観光客が殺到するベニスでは…

 オーバーツーリズムは世界的な難問になってきた。英国旅行業協会(ABTA)も緊急の課題とし、世界観光機関(UNWTO)もオーバーツーリズムが諸都市で激化していると警告した。昨年9月のUNWTO報告書は、「過密、騒音、ゴミその他の迷惑によって住民の間で旅行者へのネガティブな態度が高まっている」と指摘する。

 特に訪問者が60年前の40倍に増えた欧州では、各デスティネーションで取り組みが活発化している。オーバーツーリズム対策としていろいろ考えられるなかで、旅行者税は人気デスティネーションで採用が始まってから最近のトレンドだ。観光地は入込客数を抑制しても観光収入は減らしたくないが、それには落としてくれる消費額が少ない日帰り旅行者とクルーズ客をターゲットにするのが効率的だ。

 オーバーツーリズムが問題になるのは、限られた地域・スペースに、特定の時間、期間に旅行者が殺到する観光地だ。人気の観光地ベニスは、夏期だけで2400万人の旅行者が訪れるが、そのうちの一時滞在客に上陸税を課すことにした。税額は基本が1人2.5~5ユーロ、ピークには10ユーロとなる。ベニス市長は上陸税をハイシーズンの4月から施行する計画と述べた。主にクルーズ客をターゲットにするもので、短時間の観光で中心部の混雑を激化させ、生活環境にも影響が大きい。

 12月に議会を通過した上陸税の収入は19年予算案に組み込まれ、特にホテル事業者に歓迎されている。同市ホテル協会会長は、「一時滞在者は朝から晩までいても、ベニスの観光事業に貢献するのはわずかで、われわれの負担が増えるだけ。ここには原則、無料のサービスはない」と述べた。

 同会長によると、税収によって街を整備し、清潔に保つことができる。これまで街を維持するコストは住民だけ負担していた。ベニスはすでにホテル税を課しており、年間約3000万ユーロを得ている。短期滞在者のほとんどが歴史的なサンマルコ広場など中心部の混雑を激化させており、市が予定する新しい上陸税による年間5000万ユーロの増収は各種サービス向上にもつながるだろう。

アムステルダムはクルーズ客に課税

 285万人口のアムステルダムもクルーズ寄港が多く、週末客を含め来訪者全体で1700万人が訪れる。1月からクルーズ旅行者に1日8ユーロの課税を始めた。市は旅行者はホテルに泊まればホテル税を払うのだから、船に泊まっても同じことと正当化する。マヨルカのあるバレアレス諸島(地中海)は16年から来訪者に課税しているが、税率は宿泊施設のタイプによって変わり、豪華ホテルの場合は1泊4ユーロだ。

 英国エジンバラ市議会は一昨年末に旅行者税を諮問したが、指導者たちは一時滞在の旅行者に1泊2ポンド、最大14ポンドの課税を提案した。まだ実現していないが、議会には殺到する旅行者に閉口する住民の怒りが広がる。

 フィレンツェの市長はイタリアの他都市でも日帰り旅行者に同じ課税ができるよう要請している。

 オーバーツーリズム対策では課税の他に入込客数制限もあるが、リビエラでは年間1500万人、ドブロブニクではユネスコ世界遺産のオールドシティセンターに1日4000人の人数制限をしている。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。