クルーズの隆盛と船内高級品リテーリングの関係

2019.02.25 08:00

 昨年末の英国フィナンシャルタイムズ(FT)紙は、近年のクルーズの隆盛と船内高級品小売(リテール)の密接な関係を紹介している。

 最近のクルーズ客の平均年齢は47歳と典型的な引退者層より若くなり、ショッピングを好む。船上のショッピングは免税の特典と持て余す時間を生かすために重要な要素だ。昨年、購入商品の中で時計と宝石は船上の販売額の24%を占めた。

 クルーズ船の販売チャネルは、スターボード(LVMH―モエ・ヘネシー・ルイヴィトン・グループの子会社)など大手リテールが独占している。彼らはカリブ海からアラスカまで多数の航路で、ブライトリング、シャネル、ショパールを含む高級ブランド多数を扱う。同社は来年までにクルーズ90隻に750ブランドに取り扱いを拡大する。

 地上のリテールはインターネットとの競争に苦しむが、クルーズリテーリングは繁盛しプロフェッショナルで洗練された販売手法が採用される。それはクルーズ会社のプロモーションでもある。ワールドクルーズのティファニー主催のハイティーは今では宝石販売イベントになっている。これは最近クルーズに広がっているエクスペリエンスの1つで顧客にブランドを体験させる機会になる。

 カーニバルクルーズでは高級宝石ブランドのルバンが、パーソナルなショッピングイベント創造に努める。販売スタッフは顧客を宝石でドレスアップして写真撮影し、高価なイアリング購入に進むことを期待して100ドル相当のクオーツ(原石)をギフトとして提供する。高級時計のウブロは時計の技術者を乗船させ、時計のムーブメントをお客が組み立てるセミナーを開催する。ここ数年の高級時計ブランドの販売伸長は記録的だ。

記憶に残るエクスペリエンス

 船上の店は閉じ込められた顧客を持つが、寄港地では群がる小売店との競合がある。これらの店では割引販売が一般的で、価格競争で船内店も実際に多少の割引もあるが、顧客確保はもっぱらエクスペリエンスと対話販売のイベントに頼りつつある。価格競争の排除を顧客が必ずしも歓迎するわけではないが、スターボードで販売する(クリスタルの)スワロフスキーによると、船上の商品割引は販売を鈍化させ割引する会社は減っている。

 それは船上のリテールビジネスを沈滞させるという。全体として商品の高級化が進むなか、もはやクルーズのショッピングで価格は唯一の問題でなく、旅を楽しみ、気ままに過ごす時間の中でより重要なのは記憶に残るエクスペリエンスだ。顧客と質の高い時間を過ごすことにクルーズリテーリング成長の可能性がある。革新的、創造的で豪華になった船に合わせ、リテーリングもエクスペリエンス要素を発展させ、より広いクルーズエクスペリエンスの一部になると主張する。

 来年、リチャード・ブランソンのヴァージン・ヴォヤージュ(以前のヴァージンクルーズ)は、第1号ザ・スカーレット・レディで競争に参入する。成人限定の豪華船で、リテール契約は現在、62隻に250店を展開するハーディングリテールに任せる。クルーズ産業は活力がある。クルーズ利用者は過去5年間で25%増加し、18年には2800万人と予想される。クルーズリテーリングも記憶に残るショッピング体験提供で発展を続けるだろう。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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