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いま英国へ旅行すべきか、英EU離脱への反応

2019年1月28日 8:00 AM

 昨年合意をみた英国EU離脱協定は、現時点では英国議会の承認がないまま運命の3月29日の離脱日が迫ってくる。強硬な離脱の危険性が増しつつあるなか、ドイツの消費者や旅行業界の反応はどうだろうか。大衆紙には「いま英国へ旅行すべきか」とか「ポンド安で英国旅行は今がチャンス」といった見出しが躍り、今後の出入国管理や航空事情、運賃、滞在費、ローミングなど読者の疑問に答える内容が紙面を飾る。

 離脱決定以来ポンド安が続き、観光業も英国の物価安を宣伝している。離脱期日後、ましてやハードな離脱ともなればポンド安は一層進み、EU からの旅行者にとって英国旅行の魅力が増す。ドイツの大手旅行会社は現在すべての英国内目的地への需要が強く、明らかに為替によるものと述べる。

 各メディアはソフトであれハード離脱であれ旅行業にはかなりの問題と指摘。事業者は合意なき離脱となるか、合意が了承され20年末まで現状維持の移行期間に入るソフトランディングか、かたずをのんで見守る。ドイツ旅行業協会はこの不透明の中で基本的な問題を下記のようにまとめた。

 航空運航停止:離脱とともに英国は欧州共同空域を去ることになり、多大な時間を費やす新たな航空交渉をすることになる。欧州全域で活動するTUI やIAG、イージージェットなどは運航権など大きな影響を受ける。ハード離脱の場合は英国とEU諸国間の運航が一時中断する危険もある。

 旅客のリスク:旅行会社はすでに不透明性に直面している。離脱から生じるリスクを客に説明する義務があり、離脱の条件に左右される英国旅行を扱うことが複雑になる。

 ビザと移動の自由の確保:シェンゲン条約非加盟国の英国入国には以前から入国審査があるが、今後EU 市民にビザ発給が義務づけられる可能性もなくはない。ノルウェーがEU からの旅行者に適用する90日ビザ免除と同様の規則が適用されるかもしれない。いずれにしても入出国審査に時間がかかる。ビザ発給は欧州が苦労して獲得した旅行の自由を著しく損なう。航空運送業務停止もあってはならず、もし起これば経済的損害は計り知れない。英国議会が暫定合意案を承認すれば移行期間中に運航権の交渉をまとめることになる。

  移行期間の延長:交渉のためのさらなる離脱移行期間の延長はありうるが、これには全EU加盟国の承認が必要となる。

 緊急非常事態:観光経済に最悪のシナリオである強硬離脱に備え、EUは非常事態行動計画を承認している。航空運送業務を維持する等々アドホックの措置が盛り込まれる。業界としてはこの緊急行動計画を実施せねばならない事態は避けたい。

 英国人の旅行: 英国人旅行者は16年にEU27カ国で5億6000万強の宿泊をもたらした。EU諸国における外国人宿泊数をみると1位がドイツ人で7億7000万泊、2位英国5億6000万泊、3位フランス2億となり、英国の重要性は大きい。世界有数の英 国旅行市場が離脱をどう克服するか、この点も不透明性を増している。

 旅行マインドを冷やしかねない不安定な国際政治状況のなか、まずは目先の英離脱問題が良い方向に向かうことを願うばかりだ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。