観光地の経営を司るDMO成功の7つの条件
2019.01.21 08:00
最近、各地のDMO登録法人・候補法人からの講演・講習等の依頼が増えている。地域間の温度差はあるものの、観光立国への熱意の高まりを実感する。観光庁によると、登録済みの日本版DMOは86法人、未登録の候補は122法人(18年7月現在)。しかし実際のところ、登録済みのDMO関係者からでさえ、「正直、いまは補助金や支援を受けるために登録しただけの段階。実は今後どうすればいいか分からない。真の成果を生み出すやり方を教示してほしい」「うちはDMO専従職員といっても名ばかり。実態はこの分野に未習熟の行政マンや民間旅行会社からの出向など寄せ集め組織でしかない。残念ながら旅行会社からの出向者にもインバウンド、とりわけFIT(個人客)集客の知見はない」とか、「なにしろ財源が足りない」といった赤裸々な相談事や嘆きも耳にする。
そもそもDMO(Destination Management /Marketing Organization)とは何か。頭文字のDを観光地域と翻訳してしまうと、最初から間違えてしまう。本来D(デスティネーション)とは最終目的地の意味。では、何の目的地か。それは人・モノ・金(資本)の目的地である。私たちが住む各コミュニティーエリアの経済は、域内居住者の総生産によって回っている。従来、このエリア内マネジメントを地方自治体が担い、地域住民のための花火大会や盆踊りの切りもりについては地元の観光協会等が担ってきた。ほとんどは内輪(ないし隣接市町村)の経済圏の仕事であった。デスティネーションという概念はこの思考枠とは真逆のパラダイムである。いかに自地域外からの人・モノ・金を自地域に呼び込むかという外部目線の発想で、自らの地域を主体的・総合的にマーケティングし、マネジメントすることが大前提の概念である。
それゆえDMOは単なる観光協会からの看板の架け替えで済むものではない。もっと重要かつ複合的な責務を担う。DMOとは本来人口減少時代の地域の生き残り戦略を担う組織でなければならない。日本のほとんどの地域は、今後少子高齢化・生産年齢人口減少と人口流出によって衰退・破綻、消滅の危機に直面していく。その危機に全力で立ち向かう組織こそがDMOである。一言でいえば、域外の需要を域内に持ち込み域内総生産を最大化するための組織だ。
それでは成功するDMOの具体的な条件とは何か。それは次の7つである。(1)DMOの本来の責務に基づく明確なビジョンと目標(短期・中期・長期)が策定されている。(2)部門ごとに高度な専門性と能力をもった責任者とスタッフ人材が揃っていて、しかも出向者ではなくプロパーの人材を有する。(3)組織内の適切かつ自律的なガバナンス(統制・管理・監督等の機能)が確立されている。(4)行政機関からの補助金や会費収入に加え、宿泊税他の目的税等による安定した自前の財源を有する。(5)高度なアドボカシー(地域内の官民他さまざまなステークホルダー間の利害調整)機能を有する。(6)シビックプライド(市民の誇り)形成能力。(7)上記(1)で触れた高度人材を育成するための独自プログラムを有するか、外部の専門家育成機関と連携して持続可能な人材育成の機能を有している。
まさにこうした条件をすべて備えた真のDMOだけが、旅行会社やOTA、メディアやその他商社などの大手資本の下請けになることなく、自地域のすべての居住者の代理人として、国内や海外からの人・モノ・金が自地域に向かうベクトル最大化のために、主導権を持って自地域の価値を創り、高め、世界に売り込み、域外の需要を域内に持ち込むことを実現可能にしうるのだ。
中村好明●日本インバウンド連合会理事長。1963年生まれ。ドン・キホーテ(現PPIHグループ)入社後、分社独立し、ジャパンインバウンドソリューションズ社長に就任。官民のインバウンド振興支援に従事。ハリウッド大学大学院客員教授、国際22世紀みらい会議議長、全国免税店協会副会長。
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