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中国人海外旅行市場で健闘する英トーマスクック

2019年1月7日 8:00 AM

 トーマスクックグループは業績のアップダウンが激しく、株価も大きく変動している。昨年9月末には英国の夏が異常に暑く旅行の売れ行きが悪かったため、年間の営業利益が3億5000万ポンドから2億8000万ポンドに落ち込むと発表した。同社株は発表後23%下落した。11月末には見通しがさらに引き下げられ、同社の時価総額は以前の半分以下に低下した。同じような事業形態のTUIが同時期の年間利益が前年比10%上昇するとしているのと大きな違いをみせる。反動で12月半ばには同社の株価も一定程度回復したようだが、不安定な状況が続いていることは間違いない。

復星を進出のパートナーに

 こうした状況で一部から投資不適格の声も出るが、意外なところで健闘が報じられている。発展目覚ましい中国市場である。11年に TUIが欧州系旅行会社として初めて進出したが、北京事務所に100人程度の社員がいるものの旅行客の受け入れ業務やMICEが中心で、中国市場を対象とした発業務に関わるスタッフはごく少数の模様である。

 これに対しクックの中国進出は15年10月と遅い。進出のパートナーは旅行関連企業でなく復星(フォースン)という中国最大規模の民間投資会社である。中国市場参入を目指して、まず上海に拠点を開設したクックチャイナは、東南アジア、欧州、北米を中心に40のデスティネーションへ90以上のツアーを設定し主に自社サイトで販売することから始めた。その後、中国最大の旅行商品販売プラットフォーム飛猪(フリギー)にも出店し現地市場への食い込みを図った。

 順調に中国の発旅行市場の取り扱いを伸ばし、18年には20万人の取り扱いを目標としていた。主要デスティネーションのタイで40人以上の中国人が亡くなった18年7月のプーケットでの船の事故や、全般的な市場の停滞などの影響から取扱人数は16万人にとどまったが、ダッシ社長は20万人を達成できなかったものの16年に参入した時から8倍増加したと結果を評価している。

 ちなみに停滞するタイへの市場に代わり同社の最大送客地となったのは日本で、19年には日本に拠点を開設する計画が進んでいる。

ホテル事業計画、20年の開業狙う

 事業をさらに本格的に拡大するため同社はいくつかの施策を始めた。1つは中国独自の販売システムである。グループが保有するベッドバンクなどとシステム結合し扱う商品を増やして、飛猪などを通じた販売を拡大する。さらに拠点のある上海発着商品中心の状況を改め、北京、広州、深センなど発着を増やすことでより多くの集客を目指す。

 外国旅行より急激に発展する国内旅行マーケットへの本格参入も準備される。その中にはトーマスクックブランドのホテル事業を中国で開始する計画もあり、すでに20年には2つのホテルがオープンする予定だ。こうしたいくつかのプランを推進することで、中国市場をトーマスクックにとって欧州市場と並ぶ重点地域とする戦略のようだ。

 日本ではインバウンドの立場から中国市場の重要性が語られることは多いが、中国で中国人を対象としたビジネスにクックほど本格的に取り組むケースは聞かない。すぐ隣に世界最大の、しかもある意味未成熟な巨大市場があるわけで、日本の旅行業界が受け身に感じられ寂しいところがある。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。